『空の境界』3巻
不意を突く言葉
レビュアー:USB農民 Adept
ゼロ年代に発表された伝奇作品のなかで、トップクラスの知名度とセールスを稼ぎ出した傑作『空の境界』で、最もよく知られた名台詞の一つが、冒頭に引用した台詞だろう。万物を殺すことが可能な眼をもった主人公・式の台詞だ。『空の境界』のテレビCMで使われたこともあるから、それで記憶している方もいるかもしれない。漫画版3巻の物語では、ちょうどこの台詞の場面が描かれている。
けれど、3巻にはもっと切れ味鋭い台詞が登場していることは意外と知られていないのではないか。一度聞いたら忘れようのない強度を持っているという意味では、前述の「生きているなら~~」もなかなかだが、次に引用する台詞はそれを越えている。
「仕方がないんで、ハラん中の病気だけ殺しておいた」
……つっこみどころの多い台詞だ。「病気を殺す」て。しかも「病気だけ」とかすごい器用じゃない? そもそも「仕方ない」て、どういう状況で「仕方なく」「病気を殺す」ことになるんだよ。いや、物語中では確かにその状況が描かれているのはわかってるんだけど、わかってはいるんだけど、しかし、言葉にしてみるとこれほどおかしな状況ってないだろ?
小説でも映画でも私は毎回この台詞で笑ってしまった。今回も笑った。シリアスな物語に、いきなりこんな不意打ちのような台詞が出れば、笑ってしまうのも、仕方がないんで。