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「spica」のレビュー

銅

spica

生きめやも

レビュアー:ラム AdeptAdept

  「恋愛は甘くて音楽のように心地の良いものだと思っているやつがいたら死ね。」


冒頭文に感涙ほとばしる。
続く文章も最高で、私はもう「spica」を崇め奉るしかなかった。

恋愛は甘ずっぱいだけではない。
前作「エレGY」では、親友カップルで示唆されていた。好きだから嫌いだと思うこともあったり、喧嘩したり、嫉妬したり、反省したり、恋愛には嫌なこともいっぱいだ。

終わったあとも続く恋の物語。未練たらしく、残酷な物語。
それでも「spica」に出てくる主人公の親友は初々しいカップルで、二人とも水井くんに優しくて、苦しい恋愛だけが生きてるすべてじゃないんだと思える。
私は冒頭文を礼讃しているけれど、やっぱり死ななくていいよ、うん。生きよう。

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2014.06.18

「spica」のレビュー

銅

spica 泉和良

純粋に恋愛小説

レビュアー:鳩羽 WarriorWarrior

 宇宙の果てはどこにあるのだろう。宇宙は膨張し続けているというから、宇宙の果てもずっと遠ざかり続けているのかもしれない。ならば、宇宙人のような彼女との、フォーリンラブ的な恋の終わりはどこにあるのか。
 この小説は、恋をきちんと終わらせようとして終わらせることができない主人公・水井君の心情を描いたものだ。元カノの遙香に浮気され、未練たらたら離れて暮らすようになり幾星霜、今更!というタイミングで、遙香から突然電話がかかってくる。そして恋がまだ終わっていないということに気づかされる。
 ピンクの髪の遙香は、情緒不安定で空虚を抱えていて虚言壁を持っていて適当な言葉を作って喋る。オンラインゲームにはまっていて、ろくに家から出ない。水井の方も、趣味の作曲で小遣い稼ぎをする程度、出歩くのはコンビニに行くくらいで、ふらふらと何を考えているのかいまいち分からない感じで生活している。
 互いに互いのどこに惹かれているのか、どの辺りに魅力があるのか、正直さっぱり分からない。相手の欠点をも含めて、そのすべてが好きだというのは確かにすばらしい。けれど、その気持ちが一人だけに向けられると、自分たち以外分かりあえる人間はいないのだという、この世界に二人だけ状態を創り出す。この二人の恋は二人のフィクションのなかに閉じこもり、だからこそ純粋なままで、美しく完結している。
 虚構と現実の価値観が入り交じるかのような報道を嫌悪する水井は、遙香のなかにある純粋さこそをかけがえの無いものとして、愛する。面倒な性格だと知っていながら、それでも遙香でなくてはならない。遙香に裏切られると、ひどく鬱状態になって生きていくことすらできなくなってしまう。
 誰だってその渦中にいるとき、恋の果ては想像してみることしかできないのだろう。そこにこそ、恋の恐ろしさと幸せが同居している。
 恋に果てなどない。恋を終わらせることなどできるはずもない。
 実際には数多の恋は終わって死んでいくのだが、そういう感想を持ち込むのも野暮かもしれない。彼らはそういう現実をよく知った上で、星屑のような恋の切実さに気づいたのだから。
 そんなキラキラした部分だけをすくい取ったかのような、純粋な、混じりものが丁寧に取り除かれた恋愛小説だった。

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2014.02.25

「spica」のレビュー

銅

spica

私が「spica」を好きな理由

レビュアー:ラム AdeptAdept

 『spica』は、終わった後も続く恋の話だ。
恋人に浮気されて別れても、呼び出されたら嬉しくて応じてしまう。好きだから。
もう彼女でもなんでもないのに、恋人同士だった時とおなじような日々が続く。でも、同じでなんかない。キスもできない。もう、恋人じゃないんだから。
 浮気をされて別れても嫌いになれない、主人公・水井くんが言うところの「未練が爆発した状態」での苦しい恋心。読んでいるだけで私も苦しくなる。

 水井くんには親友がいる。
ヨリを戻した次の日にまた浮気相手と会っていた彼女に絶望して、水井くんは無意識に千野くんに電話をかける。
「死のうと思うんだ」
言うつもりのなかった言葉を全部吐き出して最後にさようならと言うと、千野くんは「待って」と叫んだ。
その声はとても大きくて、鋭くて、水井くんは電話を切るのを留まる。
千野くんは仕事場にいて、大きな声は目立っただろうに、抜け出すのも大変だろうになりふりかまわない。
命がかかっているのだから当然だろうか。でも自分には同じことができる気がしないのだ。

 浮気されても好きでい続けるなんて、死にたくなるほど好きだなんて、そんな気持ちも、好きでいるのが苦しくても、姿を見るだけで心に光が灯るなんて、あまり実感はないのだけど。

 『spica』には恋だけでない愛の感情が詰まっていて、私の中にない気持ちも想起させてくれる。
『spica』の「好き」を読んでいると、こんなに真摯な「愛」があるんだって、とても幸せになれるんだ。

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2014.01.29


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