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読者レビュー

銅

spica 泉和良

純粋に恋愛小説

レビュアー:鳩羽 Warrior

 宇宙の果てはどこにあるのだろう。宇宙は膨張し続けているというから、宇宙の果てもずっと遠ざかり続けているのかもしれない。ならば、宇宙人のような彼女との、フォーリンラブ的な恋の終わりはどこにあるのか。
 この小説は、恋をきちんと終わらせようとして終わらせることができない主人公・水井君の心情を描いたものだ。元カノの遙香に浮気され、未練たらたら離れて暮らすようになり幾星霜、今更!というタイミングで、遙香から突然電話がかかってくる。そして恋がまだ終わっていないということに気づかされる。
 ピンクの髪の遙香は、情緒不安定で空虚を抱えていて虚言壁を持っていて適当な言葉を作って喋る。オンラインゲームにはまっていて、ろくに家から出ない。水井の方も、趣味の作曲で小遣い稼ぎをする程度、出歩くのはコンビニに行くくらいで、ふらふらと何を考えているのかいまいち分からない感じで生活している。
 互いに互いのどこに惹かれているのか、どの辺りに魅力があるのか、正直さっぱり分からない。相手の欠点をも含めて、そのすべてが好きだというのは確かにすばらしい。けれど、その気持ちが一人だけに向けられると、自分たち以外分かりあえる人間はいないのだという、この世界に二人だけ状態を創り出す。この二人の恋は二人のフィクションのなかに閉じこもり、だからこそ純粋なままで、美しく完結している。
 虚構と現実の価値観が入り交じるかのような報道を嫌悪する水井は、遙香のなかにある純粋さこそをかけがえの無いものとして、愛する。面倒な性格だと知っていながら、それでも遙香でなくてはならない。遙香に裏切られると、ひどく鬱状態になって生きていくことすらできなくなってしまう。
 誰だってその渦中にいるとき、恋の果ては想像してみることしかできないのだろう。そこにこそ、恋の恐ろしさと幸せが同居している。
 恋に果てなどない。恋を終わらせることなどできるはずもない。
 実際には数多の恋は終わって死んでいくのだが、そういう感想を持ち込むのも野暮かもしれない。彼らはそういう現実をよく知った上で、星屑のような恋の切実さに気づいたのだから。
 そんなキラキラした部分だけをすくい取ったかのような、純粋な、混じりものが丁寧に取り除かれた恋愛小説だった。

2014.02.25

さくら
まじりっけナシの恋愛小説!傍から見るとどうしようもないなーと思う部分でも恋をすると全てがキラキラに見えるのですね屑も星屑に見える恋のマジック!!
さやわか
これも非常によくまとまったレビューですね。書き手の作品に対する丁寧な感想から、書き手自身の恋愛観が感じられるような気がするのも面白いと思います。作品に合わせて、全体に宇宙や星の比喩を用いているのも美しいですね。「銅」にいたしました!ちなみに、このレビューの誠実なトーンは書き手自身の視点から語るというスタンスを慎重に守り続けているからだと思うのですが、もしできるならもう少し一般的な読まれ方、つまり読者がこの本を読んだらどんなことを思うのか、という書き方に寄せていくと、さらにレビューの読み応えが出せると思いますぞ!

本文はここまでです。