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「2013年のゲーム・キッズ」のレビュー

銅

2013年のゲームキッズ

拡がりを認め識る

レビュアー:Dual InitiateInitiate

ニコ生にてマウスプロモーション所属の声優さんやなんと能登さんも朗読していた「2013年のゲームキッズ」について今回はレビューをしよう。

朗読する短編小説の書き手は渡辺浩弐さんであるが、これが実に独特であった。どう独特なのかと言われると100%の説明はできないのだが、フィクションをリアルと錯覚するような感覚がどの小説にも共通してある。それ以上知りたければ実際読むしかあるまい。

さて、そんな小説をプロが朗読するとどうなるか。私は声優さんが朗読すること自体は目新しさを感じていなかった。音を、声を聴くというのはドラマCDなどで既に慣れていたからだ。だが実際に聴いて見ると、その声優さんならではの解釈、想像、そして補完があった。世界が文字による2次元から音による3次元のような拡がりを感じた。

総じて、意外性というよりは創造性を強く感じた。単なる読書、朗読あるいはドラマCDなどに少し飽きを感じている人よ、ぜひ次の機会に聴いてみてはいかがだろうか。新風が吹くことを保証しようではないか!

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2013.07.08

「2013年のゲーム・キッズ」のレビュー

銅

2013年のゲーム・キッズ

人類は、進化しているのか、退化しているのか。

レビュアー:飛龍とまと AdeptAdept

 2013年のゲーム・キッズは言わずもがなショートショート作品だ。もちろんのこと毎回主人公も舞台も異なる。しかしもしかしたら『実際にあり得た』かもしれない、もしくは『近い将来存在する』かもしれないような舞台設定が、世界観が綴られている。ははは、あり得ないよこんなの、と軽く笑い飛ばせない。現実からかけ離れていそうでしかし妙なリアリティを保った物語集なのだ。一編一編が短いため読むのに時間が掛からない、そんなお手軽さもお勧め。私の場合そのお手軽さが悪い方向に作用し、「一編短いしまあそんな時間掛からないからまとめ読みしちゃおうっと」などと考え時間を忘れて画面に張り付いていることが多いのだが。

 クローン人間、SNS、DNAバンク、アンドロイド、不老不死、IPS細胞、3Dデータ、未来、調査、電脳……
 SFモノが好きな人間にはたまらない用語が、物語中のあちこちに散りばめられている。それらの働きにより、大きな世界から切り取られた一部分のショートストーリーは結末を迎える。その結末が幸せなモノか、不幸せなモノか、はたまたどちらとも言えないモノか。何にせよゲーム・キッズの大部分は技術の革命もしくは進化の延長線上に起こるちょっとした、はたまたどうしようもないような出来事に占められているのだが、ここでも奇妙なリアリティを抱いてしまうのだ。

 考えすぎかも知れないが、物語に視線を滑らせる度、かつて過ぎ去った時代に比べ随分と充実してしまった、私たちを取り囲む環境を連想する。それらの行き着く先を暗示しているようにも思えて一種の恐怖すら覚えてしまうのは――はて、私だけだろうか?

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2013.07.08

「2013年のゲーム・キッズ」のレビュー

銅

2013年のゲーム・キッズ

想像してみよう

レビュアー:ジョッキ生 KnightKnight

 Web限定エディション第二回は如何でしたでしょうか?第一回に比べると、恐怖というよりは気持悪さに比重があったように思う。
 しかし、これも考え方次第で、恐怖に変えることができるのにお気付きだろうか?
 画面上の虫達、これを自分の記憶と結び付けるのだ。密集した虫の群れ、これは大きな石を退かした時の、あの光景を思い浮かべるとどうだろう?上から落ちてくる虫、これは木の下を歩いていて突然落ちてきた、あの状況を思い出すとどうだろう?恐怖心が増してきませんか?
 このように、自分の実体験を盛り込むことで、気持悪さは恐怖へと昇華される。皆さんも是非試してみて欲しい。そして、僕自身が味わった恐怖を少しでも感じてもらいたい。だって、僕だけが怖い思いをするのは不公平・・・でしょう?

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2013.06.22

「2013年のゲーム・キッズ」のレビュー

銀

「2013年のゲームキッズ」第30回「自殺」

「紙には、電子書籍の質感がない」

レビュアー:USB農民 AdeptAdept

 電子書籍と紙の本には様々な違いがあって、そのうちの一つとしてよく挙げられるものに、「紙の質感の有無」というのがある。
 本を手に持ったときの重さや表紙の手触り、ページをめくる際の触感といった、物理的な感覚のことで、当然のことながら、電子書籍にそれはない。だから、紙の本を好む人には、その部分を電子書籍の欠点と言う人もいる。
 けれど、私はこう思う。「電子書籍に紙の質感がないなんて、そりゃそうだよ」と。
 ないものねだりなのだ。電子書籍に紙の質感を求めるのは筋違いだ。だって、電子書籍って、紙でできてないんだから。
 
 ただし、電子書籍に「紙の質感」に対する代替価値がないことも事実で、その点についての指摘はまっとうだとも思う。電子書籍に足りないのは、「紙の質感」ではなく、「電子書籍にしかない質感」なのだ。
「ゲームキッズ」を読んで、そんなことを考えたのは、この作品には、「電子書籍にしかない質感」があったからだ。

「自殺」と題されたこのショートショートは、自殺志願者の主人公が、自殺支援組織を運営する山奥の村を訪ねる話だ。
 小説を読み進めながらページをスクロールしていくと、少しずつ何かがページ上部から落ちていく。それが蛆虫であることに気づくころ、文字の上を蛆虫が這い始める。この蛆虫は、実際に画面上をくにくにと這って動いている。それがまっっっことに気持ち悪い。小説の最後までたどり着くと、文章の半分くらいは大量の蛆虫で埋まっていて、まともに文字が読めない状況になる。読もうとする文字の上に、常に蛆虫が這っているという光景は、頭の中で浮かべる思考の言葉にも蛆虫が張り付いているような、曰く言い難い不快感がある。物語の最後も、主人公が大量の気味の悪い虫に体を覆い尽くされる場面となっている。文字を読む読者と、作中の主人公が体感する不快感が上手くリンクする技巧なのだ。
 読了後は、ショートショートとしてのオチよりも、文字の上を這う大量の蛆虫の不快さばかりが印象に残る作品だった。

 これが「電子書籍の質感」なのだと私は思う。紙の本では、この感覚は普通味わえない。(読んでいる本の上に、生きた芋虫を何十匹も落とすという仕組みを、紙の本で製品化するのはたぶん不可能だと思う)

 電子書籍は、わざわざないものねだりで「紙の質感」を追い求める必要はない。そうではなく、電子書籍にしかない「電子書籍の質感」を表現する事の方が重要だ。

 いつか電子書籍が普及したら、こんな風に言われるかもしれない。
「紙には、電子書籍の質感がない」と。

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2013.06.22


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