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読者レビュー

銅

奈須きのこ・天空すふぃあ『空の境界 the Garden of sinners』

イタミを訴える。何よりも、ただ…目で。

レビュアー:ユキムラ Adept

 目という器官は、外界を受け止めるもっとも大きなファクターだ。それゆえに、目という箇所には異端が顕著に出やすい。
 ギリシア神話に出てくるメデューサ、『コードギアス』におけるギアス能力保持者など、例を挙げ始めると止まらない。
『空の境界』に登場する浅上藤乃だってそうだ。
双眸に業を負った彼女は、その業が招いた自身の無痛と、そして焦がれ希った痛みに振り回されることになる。
 漫画版【痛覚残留】第4回18ページの浅上藤乃の瞳を――その奥に渦巻くイタミの訴えを、貴方はもう見ただろうか?
 自身には無くなって久しい痛み、その為に誰かの命を踏みにじる悼み、それら行為の影響で己が魂が負うことになる傷み。
 あらゆるイタミが奔流となって吐き出されている。

「痛みは訴えるものなんだよ、藤乃ちゃん」
 辛いことが起きて沈んでいたときの心の支え。その言葉に背を押され、浅上藤乃は雨の中を歩くのだ。
   ふくしゅうのため。 いたみをえるため。
 そんな理由たちなど、些事。
 私は思うのだ。痛覚も復讐も、彼女にとっては確かに動機だったのだろう。
 けれど――
 本当は、かつて向けられた助言に、ただただ、応えたかっただけなのではないだろうか。
三年前に言えず、先日やっと言えたばかりの言葉の続きを、ただ声高に。

最前線で『空の境界 the Garden of sinners』を読む

2012.06.08

さやわか
「第4回18ページの浅上藤乃の瞳を――その奥に渦巻くイタミの訴えを、貴方はもう見ただろうか?」というところが面白いと思いました。妙に具体的で、読んでみたくなる。ここを読まなければどうにもならないのだから、後半の記述が作品と並べて読まなければイマイチわかりにくくとも、別にいいような気がしてしまいます。つまり、読まなきゃいけない、読まずにはいられない気持ちにさせた上で、読まないとわからないことを書く、という形になっているわけです。偶然かもしれませんが、なかなか面白いです。「銅」にいたしましょう!

本文はここまでです。