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読者レビュー

銀

空の境界 the Garden of sinners

痛みを感じさせて

レビュアー:akaya Novice

奈須きのこの文章はとにかく『痛い』。
それは俗に言う中学二年生的な言動のアレさではない。痛覚が発する神経伝達によってもたらされる感情のほう。

"新伝奇"なんていわれる作品だから魔術や能力を使った戦闘が描かれる。とうぜん血も出るし人が死ぬ。その時の奈須きのこはトンデモナイような文章を紡ぎだす。

挿絵はほとんどというか全く無い。映し出す光景は字の連なりからのみ想像されている。それなのにまるで観ているように感じてしまう。ナイフの冷たさを、刺さった熱さを、骨の砕ける音を身体にフィードバックするかのよう。だから『痛い』。

劇場版空の境界はその『痛さ』があった。とりわけ最終第7章は眩暈がするほど痛かった。目がチカチカして意識が飛んでいきそうだった。多分それは悲鳴の演技や効果的使われた光の明滅と音からだと思う。映像作品としての演出が奈須きのこの痛さを届けてくれた。

ではコミック版ではどうだろうか?
『痛み』を届けてくれるだろうか?
私は出来ると思っている。

コミックだけの表現としてコマ割があるし、何よりも絵と文字が同時に存在している。映像的な伝え方と同時に活字的な届け方をしてくれるのではないだろうか。

殺人考察(前)/06ではその片鱗が見えた。実際に式の手が飛び出して首を掴まれるかと思った。血が飛び出していくシーンは客観的な構図だが、そこはやけに主観的だ。まるで式と対峙しているかのよう。

次は3章痛覚残留が描かれる。腕はねじ切られ血は出るし骨も折れる。その光景をぜひ主観で感じさせて欲しい。『痛み』を届けて欲しい。

2011.09.08

さやわか
お、これはちょっと面白いですね。姫! どうですか!
のぞみ
akayaさんの考える作品の魅力を伝えられているんじゃないかなって思いました~。
さやわか
それだけっすか! やけにあっさりしてるな! いや、僕が面白いと思ったのは「血が飛び出していくシーンは客観的な構図だが、そこはやけに主観的だ」というところですね。これは映像表現の一種であり、マンガの批評理論なんかでもしばしば語られる「主観ショット」というやつについての言及です。しかし、そういうややこしそうな理論のことを書いてあるからすごいというのではないですよ。前半の「奈須きのこの痛み」という部分とそれが、うまく接続できているからこのレビューはいいのです。つまり、「奈須きのこは『痛い』→アニメはその『痛み』をうまく表現していた→漫画でもそれはできるか→できるに違いない→ここで主観的な絵を使っている→これを使えば痛みも表現できるはずだ」という筋道のしっかりした話ができています。そしてもちろんですが、ちゃんとコミック版の『空の境界』の魅力を伝える話にもなっている。面白いと思います。「銀」を進呈いたします!

本文はここまでです。