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「銀」のレビュー

銀

世界征服

まとめました

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン Warrior

「世界征服を一冊にまとめることは可能か?」
というコンセプトのもと書かれた至道流星デビュー作の文庫版。
 ダイレクトメールの発送代行をする零細企業の青年社長・朝倉陣は4年付き合っていた彼女に突然フラれてしまう。
 やけくそで入ったキャバクラで、やたら高飛車な美女・水ノ瀬凛と出会い、朝倉の人生は大きく変化してゆく。
 最初は傲慢なキャバ嬢でしかない凛が、ページをめくるごとに驚きを与えてくれる。
 えっ? 世界一、頭が良い……だと?
 彼女が掲げる目的は「世界征服」。子供の戯言のような現実味のない目的に、段々近づいていくのが面白い。
 零細企業でしかなかった朝倉の会社は、凛のアイデアであっという間にダイレクトメールの大手企業になり、医療DVDの販売でグローバルに利益を上げ、ファンドを立ち上げ450億円もの大金を出資するまでになる。
 凛と朝倉が経済について語り合うシーンが印象に残っている。凛は「今の負債と共に成長するシステム」ではそう遠くない内に破綻すると言う。その破綻を緩やかにし、現状の資本主義経済にかわる新しい仕組みを構築するために凛が世界征服する必要があると。
 
 凛だけではなく、陣の妹の綾乃(血がつながっていない……だと?)や、総務担当でドジっ子の若月彩葉、小柄だが荒事に強い藤森夕菜と、美女が揃っているのも魅力の1つ。
 零細企業、大手企業との交渉、出版、グローバルな販売、軍事力と最先端科学技術、血のつながってない兄妹、美女、等々色んな要素を過剰に詰め込んでいるのに、一冊にまとまっていることに感心してしまう。
「世界征服を一冊にまとめることは可能か?」
というコンセプトは達成しているように感じた。

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2014.04.22

銀

遙か凍土のカナン 01

オレーナは、かわいい。

レビュアー:牛島 Adept

 四回。主人公の良造がヒロインであるオレーナの求婚を断った回数である。厳密に言えば求婚を断ること三回、オレーナからの告白を断ること一回。オレーナを泣かせた回数についてはカウントするのをやめた。だんだんと腹が立ってくるからだ。

『遙か凍土のカナン』は元陸軍大尉新田良造がコサックの末裔であるオレーナ・オリャフロージュスカ・アポーストルと共に国を作る話である。歴史に興味のある人ならばかつてのコサックたちの独立運動が思い出され、また良造とオレーナを待ち受けるであろう苦難から暗い気持ちになるかもしれない――が、今はそういう話はいいだろう。

 一巻の魅力で、最も広く読者の共感を呼ぶのは、やはりオレーナがかわいいということだ。軍馬の話や塹壕戦の話、また断じてそばがきの話ではない。そう、オレーナはかわいいのだ。良造は「気位の高い、白馬のじゃじゃ馬」だの「犬大好きの犬娘」などと表現している。かわいらしいことだと思う。気位が高く我儘ではあるが、日本で目にする異国の情緒を素直に楽しむ姿もかわいい。オレーナかわいいよオレーナ。
 そして一巻で最も読者を苦しめるのは良造の態度だ。徹底的にオレーナからの求婚を断り、彼女の幸せのためだと言いながら良造を好きになることすら禁じようとする。据え膳を食わないなんてものではない。いっそ病的なほどである。良造てめぇオレーナを幸せにするとか言いながら泣かせてばかりじゃねえか、なんで四回も求婚を断ってるんだ、と言いたくなってくる。が、一応これにも事情がある。
 ……先に触れたとおり良造は戦場から帰ってきた軍人だ。一言で片づけてしまえばPTSDと診断されるだろうが、そんな一言で片づけられないほどの重荷を背負わされている。オレーナへの頑なな態度もその延長なのだ。
 いやいや、しかし。そんな良造にすでに捨て置けないと思わさせているオレーナこそを讃えるべきだろう。いっそ黒溝台の塹壕で死んでいれば幸せだったなどと良造が思う、そんな暇を彼女は与えないだろう。

 この作品は、自身でも気付けないほどに深く傷ついた良造が心を癒していく物語だと作者は語る。はたして良造にとって彼の心を癒すことは単なる旅の過程なのか、あるいはこの先、彼の心を癒すオレーナこそが目的となるのか。
 きっと後者だろうと信じたい。

 だって、そうでなければオレーナのかわいさが嘘になってしまうじゃないか。

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2014.04.22

銀

面接ではウソをつけ

うそからでた、まことの話

レビュアー:鳩羽 Warrior

 相手の立場になって考える。
 これまで幾度となく言われてきたことなのに、なかなかできなくて、だから余計に言われることになる。
 さほど親しくもないひとに、いきなりプライベートな話を持ちかける。きっと重いと思われるか、引かれるかするだろう。
 家族や親友に、悩みを打ち明けられずに悶々とする。これだと、なぜ相談してくれないのかともどかしい思いをさせてしまうかもしれない。
 好きな人にはありのままの自分を知ってほしい。
「自分は一人でいるのが好きで、喋るのが下手で、わがままで、ちょっとしたことにすぐかっとなり、なんの取り柄もないし身なりを整えることも面倒な性格です。つき合ってください」
 こんなアピールにイエスと言う人はまずいないだろう。

 『面接ではウソをつけ』という衝撃的なタイトルだが、この本はとことん相手の立場を考えることの大切さを教えてくれる本だ。
 面接官も普通の人である。入りたいと思っている会社の会社員であり、通常業務の時間を割いて、似たり寄ったりの面接を相手をこなしているのだ。
 相手が知りたがっていることに答え、相手が求めている人間像を演じる。逆に言うと、相手が知りたくもないことには答えず、相手が求めていない人間像は隠すというだけのことだ。
 百パーセント明るい人間もいなければ、百パーセント暗い人間というのもいない。誰だって好きなことに熱中している時は快活になっているだろうし、興味のあることには一つ二つ意見くらいある。
 その自分のよい部分、理想的なイメージを目に見える表面に持ってくること。
 それがこの本でいうところの「ウソ」なのだ。

 最終章のタイトルは「『新しい自分』をインストールする」
 なんと怪しげなタイトルだろう。
 けれど誰だって、好きなモデル風のメイクや、アイドルの誰々風のファッションなどなど、こっそりやってみたことくらいあるはずだ。
 性格は変えられない! と諦めるのではなく、内面もちょっと装ってみること。
 最初はよそゆきの服のようにぎこちなくても、いつかそれがしっくりと馴染んでくる。
 そのとき、自分が理想としていたイメージは、そのまま自分のものとなっているだろう。面接は、長い人生のそのきっかけにすぎないのだ。
 本当の自分は、いつでもウソで変えられる。

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2014.04.22

銀

「僕たちのゲーム史」

この道をずっとゆけば、あの街にたどり着く。

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 「スーパーマリオはアクションゲームではなかった」という帯の文句から想像されるような、さしずめ論理のアクロバットとでもいうべき新説を本書に求めて手に取った御仁は、少しばかり肩すかしを食らうかもしれない。著者ならではの新しい視点は一応、本書の中に含まれている。だが、それがメインではない。この本が語るのは、ゲームがーーそしてそのプレイヤーである「僕たち」がどのような歩みを経て、今、ここに立っているのかということだ。

 冒頭に引いた「スーパーマリオ」にまつわる言説を例にしてみよう。著者が「アクションゲーム」ではなかったと言い切れるのは、当時の説明書に「(スーパーマリオは)ファンタスティックアドベンチャーゲーム」だとはっきり書かれているからだ。この本にはそのように、説明書やインタビューからの引用が、作り手たちの言葉がたくさんある。のみならず、発売当時のゲーム雑誌の言葉ーーつまり、当時のプレイヤーの言葉もたっぷり盛り込まれている。著者は、それらを丁寧につなぎ合わせることで、「ゲーム史」という道を整備していくのだ。

 ここに、本書の大きな特徴がある。たとえそれが現代の視点から実質にそぐわないように思えても、著者は決して当時の人々の言葉を否定しない。もちろん、著者が拾い上げた言葉の中には現代のゲーム事情に照らし合わせれば、脱線しているようなものもある。だが著者はそうしたものも全て「ゲーム史」という道の材料に使う。そうすることによって、決して平坦ではなかった「ゲーム史」の実像を明らかにしている。

 道を歩くとき、僕たちは自分の足が踏みしめている地面のほかに、道ばたの草木や空模様、すれ違う人々に目を留めることだろう。そうしたものは、必ずしも全てが目的地にたどり着くために必要なものではない。けれども、歩いている道の空気を伝えてくれるものではある。「ゲーム史」でいうのならば、時代の息吹とでもいうべきものがそこからは確かに感じ取れる。僕たちは今、この本で描かれた「ゲーム史」の終着点たる「現在」に立っている。そんな僕たちがどこからやってきたのか。本書は、それを教えてくれる最良のガイドブックである。

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2014.03.27


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