時系列の上では「Zero」を先に読むことは何の問題もないが、「Fate/Zero」は決して新規の読者に優しい物語とは言えない。すべてのSF・ファンタジーに言えることだが、固有の単語や独自の世界観は物語を深める上で重要な要素になる。しかしその反面、読者に未知の情報を伝えなくてはならない必要性が出てきてしまう。情報が上手く把握できなければ、読者は置いてきぼりになってしまうのだ。
「聖杯戦争」「サーヴァント」「聖杯」「サーヴァントのクラス」「令呪」「宝具」など、漫画やゲームに触れる機会の多かった世代でさえ初見の単語が数多く存在する「Fate」はその点で(ゲームや漫画などの)初心者に薦めにくい。さらに「Stay night」が「聖杯戦争」について何も知らなかった少年を主人公に据えているのに対し、複数の視点から語られる「Zero」はいきなり「Fate」の世界を形作る情報が氾濫してくるのだ。これでは読み始めが少々つらいかもしれない。
しかし設定でつまずく人もそこで諦めてほしくない。設定が多く複雑でも決してストーリー自体(3巻までの時点で)はそこまで複雑ではないのだ。これはキャラクターに振り分けられた明確な役割に起因する。
敵を打ち倒すヒーローがセイバー陣営
ヘタレな若者の成長で魅せるのがライダー陣営
囚われの少女を救い出す茨の道を歩む悲劇のヒーローがバーサーカー陣営
時には敵対し、時には味方となるライバルがランサー陣営
カリスマ的存在感を醸すヒールがアーチャー陣営
誰もが不快感を催す徹底した悪がキャスター陣営
暗躍する裏ボス的空気を纏うのがアサシン陣営
かなり安直に振り分けてみたが、視点の一定しない群像劇の体をとりながらも『Fate/Zero』はかなり分かりやすい配役をとっている。この配役を見ただけでどんな物語が繰り広げられるか想像でき、ワクワクしてこないだろうか? これが全6巻。現在3巻まで発売された『Fate/Zero』をこれから読む人に向けた(あくまで個人的な)解説である。あまり構えず読んでもらえると、布教する一ファンとしては非常にうれしい。
・・・そして以後の巻で著者の虚淵玄氏の味を堪能してほしい。