遙か凍土のカナン 01
オレーナは、かわいい。
レビュアー:牛島
四回。主人公の良造がヒロインであるオレーナの求婚を断った回数である。厳密に言えば求婚を断ること三回、オレーナからの告白を断ること一回。オレーナを泣かせた回数についてはカウントするのをやめた。だんだんと腹が立ってくるからだ。
『遙か凍土のカナン』は元陸軍大尉新田良造がコサックの末裔であるオレーナ・オリャフロージュスカ・アポーストルと共に国を作る話である。歴史に興味のある人ならばかつてのコサックたちの独立運動が思い出され、また良造とオレーナを待ち受けるであろう苦難から暗い気持ちになるかもしれない――が、今はそういう話はいいだろう。
一巻の魅力で、最も広く読者の共感を呼ぶのは、やはりオレーナがかわいいということだ。軍馬の話や塹壕戦の話、また断じてそばがきの話ではない。そう、オレーナはかわいいのだ。良造は「気位の高い、白馬のじゃじゃ馬」だの「犬大好きの犬娘」などと表現している。かわいらしいことだと思う。気位が高く我儘ではあるが、日本で目にする異国の情緒を素直に楽しむ姿もかわいい。オレーナかわいいよオレーナ。
そして一巻で最も読者を苦しめるのは良造の態度だ。徹底的にオレーナからの求婚を断り、彼女の幸せのためだと言いながら良造を好きになることすら禁じようとする。据え膳を食わないなんてものではない。いっそ病的なほどである。良造てめぇオレーナを幸せにするとか言いながら泣かせてばかりじゃねえか、なんで四回も求婚を断ってるんだ、と言いたくなってくる。が、一応これにも事情がある。
……先に触れたとおり良造は戦場から帰ってきた軍人だ。一言で片づけてしまえばPTSDと診断されるだろうが、そんな一言で片づけられないほどの重荷を背負わされている。オレーナへの頑なな態度もその延長なのだ。
いやいや、しかし。そんな良造にすでに捨て置けないと思わさせているオレーナこそを讃えるべきだろう。いっそ黒溝台の塹壕で死んでいれば幸せだったなどと良造が思う、そんな暇を彼女は与えないだろう。
この作品は、自身でも気付けないほどに深く傷ついた良造が心を癒していく物語だと作者は語る。はたして良造にとって彼の心を癒すことは単なる旅の過程なのか、あるいはこの先、彼の心を癒すオレーナこそが目的となるのか。
きっと後者だろうと信じたい。
だって、そうでなければオレーナのかわいさが嘘になってしまうじゃないか。
『遙か凍土のカナン』は元陸軍大尉新田良造がコサックの末裔であるオレーナ・オリャフロージュスカ・アポーストルと共に国を作る話である。歴史に興味のある人ならばかつてのコサックたちの独立運動が思い出され、また良造とオレーナを待ち受けるであろう苦難から暗い気持ちになるかもしれない――が、今はそういう話はいいだろう。
一巻の魅力で、最も広く読者の共感を呼ぶのは、やはりオレーナがかわいいということだ。軍馬の話や塹壕戦の話、また断じてそばがきの話ではない。そう、オレーナはかわいいのだ。良造は「気位の高い、白馬のじゃじゃ馬」だの「犬大好きの犬娘」などと表現している。かわいらしいことだと思う。気位が高く我儘ではあるが、日本で目にする異国の情緒を素直に楽しむ姿もかわいい。オレーナかわいいよオレーナ。
そして一巻で最も読者を苦しめるのは良造の態度だ。徹底的にオレーナからの求婚を断り、彼女の幸せのためだと言いながら良造を好きになることすら禁じようとする。据え膳を食わないなんてものではない。いっそ病的なほどである。良造てめぇオレーナを幸せにするとか言いながら泣かせてばかりじゃねえか、なんで四回も求婚を断ってるんだ、と言いたくなってくる。が、一応これにも事情がある。
……先に触れたとおり良造は戦場から帰ってきた軍人だ。一言で片づけてしまえばPTSDと診断されるだろうが、そんな一言で片づけられないほどの重荷を背負わされている。オレーナへの頑なな態度もその延長なのだ。
いやいや、しかし。そんな良造にすでに捨て置けないと思わさせているオレーナこそを讃えるべきだろう。いっそ黒溝台の塹壕で死んでいれば幸せだったなどと良造が思う、そんな暇を彼女は与えないだろう。
この作品は、自身でも気付けないほどに深く傷ついた良造が心を癒していく物語だと作者は語る。はたして良造にとって彼の心を癒すことは単なる旅の過程なのか、あるいはこの先、彼の心を癒すオレーナこそが目的となるのか。
きっと後者だろうと信じたい。
だって、そうでなければオレーナのかわいさが嘘になってしまうじゃないか。