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レビュアー「オペラに吠えろ。」のレビュー

銀

「武器としての決断思考」

僕の後ろに道は出来る

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 タイトルにもなっている「決断思考」とは、「自分で考え、自分で決めていくための方法論」のことです。これまではレールの上を歩くような人生を送ることができました。いい高校に行けば、いい大学に行けて、いい仕事に就ける……そんなレールが確かに敷かれていた時代があったのです。

 ですが、それはもう昔のこと。現代を生きる若者たちは、予め敷かれたレールではなく、自分たちでレールを敷いていく生き方を求められるようになりました。そのとき、どの方向に、どのようにレールを敷いていくのか? どこを目的地に設定すればいいのか? そうした「決断」が必要されるのです。

 この本では、ディベートにおける思考プロセスを解説することで、そんな「決断」するための思考のエッセンスを説明しています。あまり知られていませんが、ディベートというのは“特定のルールに則った”議論であり、個々人の意見・嗜好は重要視されていません。必要なのは、客観的な事実であり、正解ではなく最善解を求めようとする姿勢なのです。

 著者はそうしたことを触れながら、「決断」に至るまでの道のりを具体例を挟みながら説明していきます。それはさながら、レールを敷く作業のような印象を受けます。信憑性を見極めた情報を丁寧に積み上げていき、やがて「決断」という目的地にたどり着く。どうしてその「決断」を下すことになったのかは、振り返ればすぐにわかる。これは牽強付会が過ぎるかもしれませんが、そうした考え方ーーこの本で言うところの「決断思考」というのは、その人だけの地図を作る作業のことを指すのではないでしょうか。

 「僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る」とは、高村光太郎の詩「道程」の冒頭です。光太郎は「流れた時間」を「道」になぞらえ、自分は自分で作るもの、自分の道は自分で切り開くものだと訴えました。では、そのときに何が必要なのか? 何が「武器」になるのか? その答えが「決断思考」だとわたしは思うのです。

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2014.05.20

銅

「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?」

「働いたら勝ち」になりたい人へ

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 ××日、インターネット上で冗談のように言われていた「働いたら負け」という文句が、資本主義経済の中ではある程度まで正しかったことが明らかになった。木暮太一が著書「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?」の中で明かした。

 「働いたら負け」というのは「働いたら負けだと思っている」の略で、元になっているのは2004年に放送された情報番組の「ニート特集」で24歳男性の発言。これは2ちゃんねるをはじめとするインターネット上で大きな話題になり、一種の流行語となった。

 今回、木暮が自著の中で証明したのは、多くの人が感じている「しんどい働き方」は資本主義経済における労働者のそれであるということ。「働いても給料は上がらず、たとえ上がったとしても生活に余裕がない」という「しんどい働き方」は、資本主義経済における必然ともいうべきもので、労働者はそこから抜け出すためには根本的な意識を改革しなければいけない。

 そのことを木暮は、カール・マルクスの「資本論」を援用しつつ、説明している。「資本論」自体は1867年に発表された古い本であるが、その前提となっている論理は破綻しておらず、そのため現代の資本主義にも通じることが、実に明快に解説されている。その上で、木暮は「しんどい働き方」をやめる方法を示唆しているのだ。

 一見冗談に思える「働いたら負け」という文句だが、ここまでインターネットを中心に流布したのは、ある程度の人がその中に潜んでいた真実を見抜いていたからだろう。「働いたら負け」から「働いたら勝ち」という状態になりたい人は、まず本書を読んでみるのがいいのかもしれない。(オペラに吠えろ。)

「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?」は発売中 価格:860円(税別)

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2014.05.20

鉄

「フリーランスの教科書」

ほら、いただろ? 英語ができないのに留学しようとか思っていたやつ

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 学生だったころ、留学を考えたことがあった。別に本当に留学したかったわけではない。留学ってなんか楽しそうだし、英語の勉強にもなるし、やっておけば就職にも有利に働くと思い、ちょっと調べていたのだ。

 だが、わたしは受け入れ先になりそうな大学のホームページを見るなり、そっとブラウザを閉じることになる。

「やべえ。入学案内とかを英語で説明されても、わけがわかんねえ……」

 留学を考えている人は入学案内を読めるくらいの語学力を身につけていましょうね、というのが、この話の教訓。

 そして、フリーランスになりたいと思って、本書「フリーランスの教科書」を手に取った人には、同様の教訓をこの本から学んでほしいと思う。

「フリーになったら、この本に書かれていることを全てやるくらいの覚悟が必要なんだよ!」

 この本は、フリーランスの人がやらなくてはいけない「契約」「税金」「保険」などをまとめたものである。出版されたのは2012年12月。出版直後ならばともかく、現在ないしは未来は、税制などの変更があるだろうから、この本に書かれていることを鵜呑みするのは危険だ。ただし、フリーランスとしてやらなくてはいけないことの大枠は変わっていないだろうから、フリーランスになろうとしている人は読むべきだろう。

 そして大半の人は、いかに会社に所属するということが恵まれたことかというのを痛感するに違いない。「フリーランス」「フリーライター」なんていうと、「自由」「かっこいい」というイメージが先行しがちだが、実情は「個人事業主」以外の何ものでもない。そうした現実を、本書は余すところなく教えてくれている。

 そういうわけで、本書の内容をかなり皮肉交じりにまとめると、「何となく会社が嫌なので『フリーランスになりたい』って言っているやつが読んだら、きっと諦めるであろう一冊」ということになるだろうか。なので、本書を読んだ上でフリーランスになると選択した人は、それ相応の覚悟があるということになると思う。わたしとしては、そういう分水嶺的な使い方を推奨してみたい。

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2014.05.20

銀

『大日本サムライガール3』

「芸能人は、どうしてファッションデザイナーになりたガールのか?」

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 本書は、右翼団体「日本大志会」の総帥である高校生・神楽日毬がアイドルとなって政治の頂点を目指す、至道流星による小説シリーズの第3巻である。毎回、芸能界の内情を交えながら、日毬の躍進ぶりを描いているが、本作では日毬が副業としてファッションブランドを立ち上げるさまがつづられている。

 芸能人がファッションデザイナーになりたがるという例は、見渡せばそれこそ山のようにある。アイドルグループのメンバーや読者モデル出身のタレントなどが競うようにファッションブランドを立ち上げ、デザイナーとして脚光を浴びるというのは、今の芸能界では日常茶飯事といってもいいだろう。

 本書では、日毬がデザイナーとしてデビューするまでの日々を通して、芸能人がファッションデザイナーになることのメリットがこれでもかといわんばかりに説明される。一つ、芸能人としての箔がつく、一つ、お金になる、一つ、実際にデザインしなくとも元になるアイデアを出すだけでデザイナー扱いされる……などなど。

 ただ、このシリーズが面白いのは、ヒロインたる日毬の破天荒な行動が、上記に挙げたような「お約束」をことごとく覆してしまうことだ。ちょっとアイデアを出すだけでよかったはずなのに、何事にも手を抜こうとしない日毬は、洋服のデザインに本格的に関わり、結果としてブランドは大成功を収めることになる。ただし、その反面で日毬は体調を崩してしまって……。

 そんな斜め上の方向に物語が転がされるものだから、読者はついつい先が気になってしまう。エンターテインメントの基本といえば、その通り。けれども、芸能界の内情を絡めることで、「実際にあのアイドルはどうなのかな~」というふうに読めるあたりは著者の腕のなせるわざだろう。

 第3巻では、それ以外にも主要人物の今後にちょっとしたサプライズが訪れる。今後がますます楽しみなシリーズになってきた。

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2014.05.20


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