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レビュアー「ヴィリジアン・ヴィガン」のレビュー

銀

スピットファイア

いいバディですねえ

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン Warrior

 「スピットファイア」を読んだ。まず結論から。
 めちゃくちゃだったし、めちゃくちゃ面白かった。
 スクールカースト物でありながら、いよいよ江波光則が学校から飛び出した。そんな印象を受けた。
 「誰かを解体したい」欲望を抱え、お気に入りのナイフを隠し持つ主人公・弦(ゲン)とアニメオタクであることで、どうにか自分を社会に適合させている春鷹(ハルタカ)の最高だけど最低なバディ物だった。
 時系列的には、前作「ストーンコールド」以前の出来事を描いている。
 弦と春鷹は、クラスメイトの沙都をいじめていた凌麻と倫子を殺そうと決めた。ただ、理由がちょっと変わっている。沙都の復讐とかではなく「あんな虐待まがいのことをする奴らは殺していい」という理由でだ。
 主に凌麻を殺そうとした2人が、あれよあれよと大ごとに巻き込まれて行く。
 魔術師スカンクや、刑事・佐々木など前作で登場したキャラも活躍する。
 キャラクター1人1人のベクトルがはっきりしていて、それぞれ間違えているのだが、筋が通っていて逆に清々しい。
 とりあえず楽器だけ持って集まった奴らが好き勝手に鳴らしているんだけど、よく聴くとすごいセッションになっている、そんな曲を聴いたような読後感だった。
 帯には「犬村小六・感嘆!」の文字。
 犬村小六の解説は読んでいて懐かしい気持ちになった。
 2011年2月の星海社セレクションズにゲスト参加したとき発売されて間もなかった江波光則の「パニッシュメント」を挙げていた。お薦めする早さへの驚きと、仲間を見つけた嬉しさを今でも覚えている。
 「スピットファイア」は同時期に発売されたガガガ文庫「鳥葬――まだ人間じゃない――」と合わせて読んで欲しい。
 「鳥葬」は小学3、4年生の仲間が遊んでいたとき起きた事件をきっかけに、心に闇を抱えてしまった青年の物語で、秘密を共有していた友達が死んでしまったことから、陰鬱な重苦しい雰囲気で過去が語られていく。これまでの江波作品の流れを受け継いだ暗めの「青春ミステリー」である。
 「スピットファイア」と「鳥葬」はスクールカーストやいじめ等の共通したキーワードを抱えつつも、作品のトーンが「明」と「暗」に分かれており、主人公も「解体したい男」と「解体されたくない男」で「解体」というキーワードで括りつつも対称的である。ぜひ、このコインの裏表を両方楽しんでいただきたい。
 2冊の本の巻末には、お互いの本の広告が掲載されており、星海社とガガガ文庫からの「俺らめっちゃ江波作品好きだし! 今回めっちゃリンクさせてるし!」という声が聞こえてくるようだ(笑)。
 2つのレーベルが弦と春鷹に被って見える。良いバディだ。

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2013.07.08

銀

投資家が「お金」よりも大切にしていること

応援する道具

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン Warrior

 「投資家」というと全く良いイメージがなかったが、この本はそれをひっくり返してくれた。
 最初のページを開いただけでタイトルとは全然違う印象を持った。
 福沢諭吉を背景に「私はお金が大好きです」と言い切る。
 どうでもいいけど、紙幣の肖像はもっと可愛い女性とかにならないんですかね。それだけでテンション上がるのになあ。
 この本は、「お金」「経済」「仕事」「会社」の順に、著者がわかり易く教えてくれる。どれについてもあんまり深く考えてなかったなあと思い知らされた。
 「お金とは、あくまで無色透明な概念にすぎない。ただの数字なのです」
と言われても最初はピンとこなかったが、
 「お金は目的を果たすための手段にすぎない」
と続くと少し分かってくる。あくまで何かをするための「道具」でしかないと言われればその通りだ。お金でジュースを買って飲むことはできても、お金を飲むことはできないし、できても喉の渇きは癒せない。たぶんめっちゃ痛い。
 最後に総括として「投資」に触れるのだが、消費者としての自分もまたある意味では「投資家」だと分かってくる。
 「良いイメージのなかった投資家」=「消費者」=「えっ?自分も?」
 ひっくり返された。
 お金を払うというということは「投票」であり「応援」でもある。
 アマゾンで本を買うってことは、地元の本屋はつぶれていいという自分の意志の表明でもあるということだ。
 著者は買い物や外食したとき店員に「ありがとう」や「ごちそうさま」を欠かさないという。そういう言葉が仕事をしている人たちのモチベーションを少なからず高める効果があると信じているからだ。
 外食したときは自分も「ごちそうさま」は言うけれど、何か買ったりして「ありがとう」は言ってないなあと思う。今後、言ってみるかなぁ。
 この本で学んだことを実践するために、ラーメンを食べに行こうと思う。チェーン店じゃなくて、地元の小汚い店なんだけど味は良いので「応援」したいからだ。若い店長はともかく、注文聞きに来るおばあちゃんの耳が遠くていつも不安になるんだけど……。
 
 あー。今日、早めに店閉めたかぁ。

 さて、私のレビューにあなた様の貴重な時間を「投資」して読んでいただきありがとうございます。「投資」に見合う価値がありましたでしょうか? もし、ありましたらその場で「ありがとう」と言っていただければそれだけで十分でございます。

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2013.07.08

銅

日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?

労働について本気出して考えてみた

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン Warrior

 日本において労働をとりまく環境は、こうなるべくしてなったことが理解できた。
 なぜ過労死するまで働いてしまうのか。
 なぜブラック企業がなくならないのか。
 今ある労働問題をどのように解決してゆけばいいのか。だいたいのことはこの本に書いてあった。
 読み通して絶望感を味わった後で、私が言えることは、
「クソみたいな会社なら辞めればいいんじゃね?」
くらいしか思いつかない。
 会社での労働問題を解決するために相談に行っても「カウンセラー」次第で、法律を使おうが「争う気概」があろうが、争ったあとちゃんとその会社で仕事できんのかという問題がある。
 精神的なストレスに関しては個人差があって、どこまでが「ゆとりwwww」で一笑にされるのかが分からない。
 日本の労働組合はほとんど飾りで、またほとんどの会社に無い。
 労働者側がひたすら尽くさなくてはならない環境を「尽くす化」とでも言おうか。
 この状況で「武器を手に立ち上がれ」と言われてもハードルの高さに萎えてしまいそうだ。

 私が老人になったらきっと孫から「ねぇねぇ、おじいちゃん、過労死ってなに?」と、戦争体験みたく尋ねられることだろう。
 過労死がどういうことなのか、わからない時代が来てほしいなと思う。でも「低福祉+低賃金+高命令」のままだと、少子化で孫以前の問題なのかもしれない。
 この本を手に取る人はきっと過酷な労働にさらされている人だろう。現状をどうにか打開したい人だろう。
 大丈夫、戦い方はきちんと書いてある。
 自分がどのように働きたいかを本気で考えさせられる一冊。

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2013.07.08

銅

武器としての交渉思考

相手のことを想う

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン Warrior

 「交渉してみないか?」という交渉が詰まった一冊だった。
 交渉というと高尚な感じが……いやごめん何でもない。
 呪文のような言葉が沢山でてくる。
「バトナ」=目の前の交渉相手と合意する以外の選択肢のなかで、いちばん良い条件の選択肢。
「ゾーパ」=合意が可能となる範囲。
「ラポール」=何かしらの共通項。
「アンカリンク」=ふっかけてみる。
 いかにも難しそうな感じだが、ちょっと中2病っぽくしたかったのだと思って乗り越えて頂きたい。重要な用語は所々まとめられているので、後から確認しやすい本になっている。
 まあ、フリーマーケットで値切るときだって交渉しなくてはならないし、お小遣いの値上げにも交渉は必要だ。
 練習問題と制限時間があり早く答えが知りたくて、考えないですぐ読んでしまいそうになる。もちろん模範解答はあるのだが、明確な正解のない時代を生きていく上で、一度立ち止まってどうか3分なり5分なり考えてみて欲しい。
 大切なのは模範解答に近い答えを出すことではなく、とりあえず自分の答えを出してみることだ。
 ちなみに、父親が娘の誕生日プレゼントの自転車を仕事が忙しくて前日まで買えず、ギリギリ交渉で手に入れた、どのような交渉をしたのか?という練習問題があった。
 私の答えは、そんな交渉ができる優秀な父親なら、忙しくて娘のプレゼントがギリギリまで買えないなんてことはないんじゃね?である。
 この程度でいいのだ。たぶん。
 交渉は相手の考えていることや情報をどれだけ集められるかの勝負だ。
 それは人を「想う」ことと同じなのだと感じた。
 著者がこの本を書いた目的は「読者のなかから、実際に行動を起こして、現実の世の中を良い方向に動かしていってくれる若い人間がひとりでも現れること」だと言う。
 どうやら私ではなさそうだ(笑)。
 君なんじゃないかなーと思う。何かを変えてくれるんじゃないかなーと思う。
 武器はここにある。
 本屋で見つけたら、パラパラとページをめくってみないか?

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2013.07.08


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