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レビュアー「牛島」のレビュー

銅

サクラコ・アトミカ

拝啓、まだみぬ読者様。

レビュアー:牛島 Adept

SF? ブンガク? 御伽噺?
それとも読者サービスに溢れたイマドキの物語?
どれでもあってどれでもない。
我々が定義できる囲いなんて
さながら観測する主体によって変化するサクラコの美しさのように
この新次元の物語は易々と飛び越えてしまう。
言えることはただ一つ。
この物語は美しい。ただひたすらに美しい。

こころの在処はわからなくとも
こころの在り方は自分で決められる。

世界は残酷で醜悪でも
命には希望と可能性がある。

僕たちの“こころ”は未来を変えることだってできる。
祈りに満ちたこの物語が
どうか貴方に届きますように。

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2011.04.28

銅

星海社文庫とそれに対するレビュー

愛蔵版という意味

レビュアー:牛島 Adept

このレビューはレビュアーのyagi_ponさんとオリミさんのお二方のレビューを下敷きに書いています。
なので、先にそちらを読んでもらうほうがいいかと思います。どちらもとても参考になり、またとても熱いレビューです(お二方が指摘していたことで同意する点は、割愛しました)。

私が星海社文庫を手に入れたのは(私用で忙しかったというのもあって)3月刊からですので、文庫を購入する前にお二方のレビューを見ることとなりました。レビュアー騎士団を有効活用した思いです。

さて。モノ自体のレビューに移る前に、少し前置きを。
星海社文庫を書店で買う前、正直かなりの不安がありました。
通販サイトのコメントでは皆かならずしも肯定的ではないし、ぶっといスピンはあちこちで否定されているからです。それを見ているとひょっとして失敗してるのか? という思いが湧き起こってきたのです。

それはちょっと使いづらい、程度では済む問題ではありません。

この星海社文庫が「小さな愛蔵版」を謳っている以上、その体裁を変えることは叶わないでしょう。愛蔵・蔵書と言われればハヤカワの銀背・金背や円本などをイメージする私としては、愛蔵版にはやはり一種の統一感を持って、本来パーソナルなスペースの本棚で自己主張するという「レーベルが持つ腕力」みたいなものが必要だと思うからです。
銀一色に揃えられた本棚は、たとえSFに興味が無い人でも「何かわからないけどスゴイ!」と思わせるものがあります。まさに背表紙が語るのです。
本がデータではなく物体であるということの最たる例ではないでしょうか。

そこで星海社文庫です。
曰く、挑戦的な装丁である。
曰く、細部に神が宿るほどのこだわり。
そうした工夫が理解される分にはいいですが、それを理解しない読者の方が多かった場合――間違いなく星海社文庫は批判に晒されるからです。ビッグタイトルから始まった星海社文庫なら、粗探しの目はなおさらそちらに行くでしょう。PS3発表時の騒動に泣いた人もいるかと思います。あまり気分のいい話ではありません。

そういった不安を胸に抱えたまま星海社文庫を買いました。

そして、結論から言うと杞憂でした。

というか買うときに不安だったとかいうのは嘘です。Fate/Zeroとひぐらしの新規イラストにテンションが大変なことになってます。レジまでの道のりすら楽しいのです。レーベルの未来とか気にしてられません。他人の意見も気にしてる余裕がありません。
同人のときのイラストが消えた?後で第7巻・ファンブックとして出せばいいじゃないですか!

で。
家に帰って中身を検分します。
ビニールを剥がし表紙を捲った瞬間、びびりました。長ッ!カバーの折り返しが、こう、長いっていうかもはや広い!
なにせほぼ全面イラストに覆われます。
話に聞いていたのに驚いてしまうこのカバー、正直一番グッと来たポイントでした。別にイラストがアサシン(♀)だったからとかではなく。

次にスピンです。なるほど確かにこのスピンは太い。幅6ミリほど。紐ではなくリボンですね。あまり収まりがよくないのも事実です。読書中は外に出しておくのが得策かもしれません。背表紙と指で挟むと、やはりそれなりの太さのおかげで、割と触り心地がいいです。
ところで、スピン自体の存在価値を少し考えたいと思います。
栞とスピンは「天から抜く」か「地から引く」かで決定的に違います。そう考えると明らかに使いやすいのは栞で、スピンの利点は一々用意しなくともいいということぐらいでしょうか。
しかし近年の文庫には、もはや一冊に一つ栞がついてくるのがあたりまえ。おそらくどの本読みの家にも、今、手に届く範囲に栞があるでしょう。私は家中至る所に何かに付いてきた栞があります。
ではスピンとはなんなのか。“高級感”を出すための小道具なのでしょうか。
現在のスピンには実用的な価値よりも装丁としての意味の方が明らかに強いと思います。
では、そもそも実用性を語る事がナンセンスなのでしょうか。

「別にこれでいいじゃないか、ロゴが入ってオシャレだし。既存のスピンに劣る部分があっても、それは仕方ない」

そんな投げ遣りな感想を抱きかけたそのとき――というか投げ遣りに思って、今月分の読書費の大半を費やして買った星海社文庫6冊を本棚に並べたとき、気付いたのです。
ブルーとホワイトの2色に塗り分けられた背表紙――その上です。
一列に並んだ星海社文庫の背表紙の上には、隣り合う文庫には無いものがあります。スピンです。6ミリもあって実用的じゃなくて綺麗に本の中に収まらなくて、どうやってもはみ出すそれが、本棚から覗いているのです。
直感的に悟りました。このスピンが持つ不自由さは、このスピンが持つ不完全さは、星海社文庫で一段埋め尽くしたときに解消されるだろう、と。
背表紙で語る愛蔵版にあって、背表紙以外のモノが見える。このチラリズムにはやられました。既存のスピンにない価値を付与する。それもこんなやりかたで……!
目から鱗の思いでした。

では最後にQRコードについて書いておきたいと思います。
以前から私はQRコードを本に記載するということが、実はかなりスゴイことなんじゃないかと思っていました。
なにせ、インターネットは本の外側なのです。愛蔵版はそのスタイルを変える事はできなくとも、その外側にあるサイトはいくらでも手を加える事ができるのです。それも本に根ざした形で。その点、パソコンを通して検索をかけるのとは大きな違いがあります。
本棚に収まってなお、メディアとして成長する。それはきっと、誰も体験した事がない読書になると思うのです。予定されている連動企画も非常に楽しみです。

で、そのQRコードですが。
今までにも連動させてきたレーベルはいくつかあるのですが、どれも申し訳程度に背表紙に小さくある程度でした。少なくとも私の知る限り、一個のデザインとして取り入れたのは星海社文庫が初めてではないでしょうか。
ここに現れる星海社の本気度に嬉しくなります。

さて。
手に入れる前までは不安があった星海社文庫ですが、実際に集めて、読んで、収納してみると、やっぱり紙の本っていいな、と思わせてくれる一品でした。
これから先、この「小さな愛蔵版」がどんな評価を受けていくのかはわかりません。批判に晒されることは、尖った存在として避けられないと思います。

ですが私はこのレーベルに心を動かされました。
このレーベルで本棚を埋めてみたいと強く感じました。

願わくは、いつかずっと後になって、誰かが本棚を見たとき――このブルーとホワイトのツートーンカラーに染められた本棚の中身を知らなくとも「何か分からないけどスゴイ!」と感じてくれる、そんな本棚をゆっくりとつくっていきたいと思います。

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2011.03.22

銅

非実在推理少女あ~や

ミステリーの皮を被ったナニモノか

レビュアー:牛島 Adept

「推理推参っ 理を推して参る」
そんな決めゼリフの名探偵あ~やこと、斜岩=バスガヴィル=綾と、硬派・純情・一途と三拍子揃った不良兼ワトスン役の少年、孫 和人(そん かずと)の二人を中心に物語は進行する。

あ~やは「崩壊者(ディザスタ)」と呼ばれる超常の存在が引き起こした「非合理な」事件に、「合理的解決を与える」事によって世界を保護する「推理者(ディティクタ)」と呼ばれる存在であり、和人少年もまた「観察者(ディレクタ)」と呼ばれる特殊な存在なのだ。
二人は頭脳と、現実を改変する魔法のパイプ「恣意的ミスト」を駆使して次々と難解で不可能な犯罪に決着をつけていく!

……とまあ。
ここまでだって別に嘘は吐いてないんですが。
この物語の本質はそこじゃない!
そんな頭脳ゲームのような堅苦しさとは無縁なのです!
レビューの場で適切なのかはわかりませんが、かつて松井優征先生が自身の作品「魔人探偵脳噛ネウロ」のことを「ミステリーの皮を被ったコメディー」と評しておられたことがありましたが、「あ~や」を読んでいて不意にその言葉が甦りました。
間違ってもハードボイルドな探偵と助手がクトゥルフじみた化け物と推理合戦を繰り広げる伝奇ストーリーではありません。世間知らずと、馬鹿と、馬鹿で変態な人たちがコミカルに活躍する不条理ギャグマンガです。とにかく笑えます。「コンバージョン・ブルー」のカッコイイ錦メガネ先生はどこに行ってしまわれたのでしょう……。

さて。
しかし、です。
私にはこれがどうにもただのギャグマンガで終わる作品には思えないのです。
確かに「あ~や」はミステリーの皮を被っていますが――その本質は、まだ誰にも判らないのです。

……ま。深読みかもしれませんが。

ただ笑いたい人も善し、今後の展開を深読みするも善し、真剣に理を推すも善し、……シオミヤイルカ先生の絵に惚れ惚れするも善し!

とにかくこの作品を読んでみて下さい。
きっと、更新が待ち遠しくなりますよ。

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2011.02.10


本文はここまでです。