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レビュアー「牛島」のレビュー

金

竹画廊

竹画廊の魔物

レビュアー:牛島 Adept

 竹画廊には魔物が潜んでいる。メシテロと言う名の魔物である。その時々の旬の食材、きらびやかなお菓子、見ているだけでお腹がすく料理。深夜に竹画廊を覗くとき、我々は常に試されている。

 竹画廊に描かれるたべものがなぜ美味しそうに見えるのか。竹氏が描くイラストは幻想的で、ときに現実のたべもの以上に美味しそうに見える。そういえば、幼い頃に読んだ児童書のホットケーキがやたらと美味しそうに見えたことを思い出す。

 きっと竹氏はたべものも、食べることも大好きなのだろう。だから、こうも美味しそうなイラストが描けるのだ。


 ああ、カブが食べたい。

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2014.03.27

銀

『マージナル・オペレーション05』

イヌワシと天使

レビュアー:牛島 Adept

『マージナル・オペレーション』は、かつて日本でニート生活を送っていた主人公・アラタと、中央アジアで少年兵として戦っていた少女・ジブリールが出会うところから始まる物語である。



 ……既読の方には当然わかるが、これは嘘だ。本編はその少し前、アラタが日本を発つところから始まる。しかも、アラタが選んだ再就職先である「民間軍事会社のオペレーター(作戦指揮官)」という仕事での、最初の挫折にジブリールは関与しない。アラタは自力でそれを乗り越えている。彼の物語が本当の意味で動き出すのは戦争の意味を理解したその瞬間である。彼を癒し、その背中を押すのは売春宿で出会った女性である。
 アラタと出会うことで動き出したのは、ジブリールの物語なのだ。

 さて、ヒロインのジブリールのかわいらしさについて今さら語ることなど不要なのだが、彼女を見る目は巻数を追うごとに変化していった。1巻で「中央アジアの戦闘美少女でしかも元はお嬢さま」という、ある種完璧な属性を備えたヒロインとして登場したジブリールは、物語が進むごとに想い人にあしらわれ続ける不憫で可憐な少女となっていく。ジブリールが異性としてアラタを好きだと主張しても、彼はあくまで「父親として」愛していると言い続ける。まあようするに、読者の視点が「ジブリールかわいい」から「アラタいい加減にしろ」へと変わるのである。
 ……これはもちろんアラタが成長することにより、読者の投影先としてではなく、物語を進める英雄としての主人公像を得ていくから、という事情もある。が、そういう問題ではない。俺たちはジブリールが幸せになる姿が見たいんだ。アラタいい加減にしろ。

 アラタとジブリールは、共に戦い、同じ景色を見ながら、それでもどこか食い違っていた。あるいはそれは、彼がジブリールを天使だと慈しみ、彼女がアラタをイヌワシと敬ったからかもしれない。
 表紙のしずまよしのり氏のイラストでも、彼らは常にセットで描かれながら、一度も視線を合わせてはいなかった。しかし5巻でついに彼らは、並んでお互いに目を合わせる。その結末は、ここで語ることではないだろう。

 アラタの物語が始まったとき、ジブリールは隣に居なかった。しかし、彼の物語が終わるとき、そこにはジブリールが欠かせないのだ。

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2014.02.25

銅

『エトランゼのすべて』

僕と会長の春夏秋冬

レビュアー:牛島 Adept

 前置きするようなことではないが、大学生の日常というものはただそれだけでは非常につまらないものだ。たとえそれが奇人変人の巣窟と名高い京都大学であっても変わらず、「楽しいキャンパスライフ」はただの日常ではありえない。
 作中において主人公・針塚圭介はこう語る。

「楽しいキャンパスライフには、必要なものがある。まあまあのお金と親しい友達、できればかわいい彼女。そして、なんといっても、素晴らしいサークル」

 しかしこれは、モテない、灰色の高校生活を送っていた新入生が入学直後に言っていることなのだ。というか、こういうことを言っているから針塚はモテないのだ。たぶん。
 さて実際、彼の生活は――「楽しいキャンパスライフ」は、予想もしていなかった存在によって彩られる。
 彼の一年間は、「会長」に振り回されたものだった。

 四月、彼が「京都観察会」に入ったのは会長の美しさと、彼女が使った「魔法」に魅せられていたからだった。
 上回生の先輩たちが彼に構っていたのは、会長と仲よくなって欲しいという下心を含んでのことだった。
 かわいらしい同級生が針塚に伝えたがっていたことは会長の、そして「京都観察会」というサークルの秘密だった。
 サークルの秘密とは、会長を守るための嘘だった。
 彼がその嘘を、「魔法」を暴くために動き始めたのは会長のためで――物語のクライマックスで、彼がなけなしの勇気を奮ったのも、やはり会長のためだった。

 会長が居なければきっと、針塚圭介の一年間はただのつまらない日常だっただろう。
 彼の一年に――「楽しいキャンパスライフ」に彩りを与えてくれたのは、会長への恋心だった。この物語は徹頭徹尾、針塚と会長の春夏秋冬だった。

 針塚の青春は、読者として、また大学生としてひどく眩しい。いやいっそ、嫉妬するほどに羨ましい。
「本当にわかりあえる友達なんて、一人や二人です」まさしくその通り。だからこそ、そうした出会いに恵まれた彼の一年間は貴いものになったのだ。

 魔法はすでに解けた。
 しかしこの一年は絶対に消えたりしない。

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2013.06.11

銅

色校正紙

粋なファンサービス

レビュアー:牛島 Adept

 手元に一枚の紙がある。『レッドドラゴン』の第四夜にて〈赤の竜〉が現れ、咆哮するシーンのイラストだ。イラストレーター・しまどりる氏のサインも入っている。

 これは五月、徳島はマチ★アソビのレッドドラゴントークショーにて、イベント参加者全員に配布された「サイン入り色校正紙」だ。
 いろこうせいし。聞き慣れない言葉だ。いわゆる「印刷物の発色」を確かめるための試し刷りで作られるものだ。パソコンの画面などと実際の印刷とでは微妙に色合いが異なっているため、そのチェックと微調整のために刷られるのだという。普通はそのまま捨てられるそれらをこうして配るというのも粋な話だ。チェックのための試し刷りとはいえ紙の質は星海社FICTIONSと変わらないし、なにせ作家のサイン入りなのだ。嬉しくないはずがない。ましてやこれを再利用だなんて言うのは、無粋の極みだろう。
 実際、これが配られた直後のufotableシネマは「ウルリーカさんの水着! ウルリーカさん水着回きた!」「シメオン団長だった!」「俺のは地図だった! 逆にレアだ!」なんて声があちこちから聞こえてすごい光景だったのだ――が、それはさておき。
 最前線をチェックしていると定期的にこの「サイン入り色校正紙」の情報が出てくる。イベント等にはなかなか行けないという方も、是非この粋なプレゼントに応募してみてはいかがだろう。

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2013.06.11


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