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読者レビュー

銅

『エトランゼのすべて』

僕と会長の春夏秋冬

レビュアー:牛島 Adept

 前置きするようなことではないが、大学生の日常というものはただそれだけでは非常につまらないものだ。たとえそれが奇人変人の巣窟と名高い京都大学であっても変わらず、「楽しいキャンパスライフ」はただの日常ではありえない。
 作中において主人公・針塚圭介はこう語る。

「楽しいキャンパスライフには、必要なものがある。まあまあのお金と親しい友達、できればかわいい彼女。そして、なんといっても、素晴らしいサークル」

 しかしこれは、モテない、灰色の高校生活を送っていた新入生が入学直後に言っていることなのだ。というか、こういうことを言っているから針塚はモテないのだ。たぶん。
 さて実際、彼の生活は――「楽しいキャンパスライフ」は、予想もしていなかった存在によって彩られる。
 彼の一年間は、「会長」に振り回されたものだった。

 四月、彼が「京都観察会」に入ったのは会長の美しさと、彼女が使った「魔法」に魅せられていたからだった。
 上回生の先輩たちが彼に構っていたのは、会長と仲よくなって欲しいという下心を含んでのことだった。
 かわいらしい同級生が針塚に伝えたがっていたことは会長の、そして「京都観察会」というサークルの秘密だった。
 サークルの秘密とは、会長を守るための嘘だった。
 彼がその嘘を、「魔法」を暴くために動き始めたのは会長のためで――物語のクライマックスで、彼がなけなしの勇気を奮ったのも、やはり会長のためだった。

 会長が居なければきっと、針塚圭介の一年間はただのつまらない日常だっただろう。
 彼の一年に――「楽しいキャンパスライフ」に彩りを与えてくれたのは、会長への恋心だった。この物語は徹頭徹尾、針塚と会長の春夏秋冬だった。

 針塚の青春は、読者として、また大学生としてひどく眩しい。いやいっそ、嫉妬するほどに羨ましい。
「本当にわかりあえる友達なんて、一人や二人です」まさしくその通り。だからこそ、そうした出会いに恵まれた彼の一年間は貴いものになったのだ。

 魔法はすでに解けた。
 しかしこの一年は絶対に消えたりしない。

2013.06.11

さくら
まさにときめきなメモリアルですね!胸キュン! 牛島さんが嫉妬しちゃうほどに、主人公と会長が過ごした日々というのはキラキラ輝いていたことでしょう。私も読んで恋するキャンパスライフを疑似体験してみたいです。
さやわか
文章が整っていて、とても読みやすい。これはそこそこ文章を書き慣れていないと作れない文体だし、内容だと思います。導入から主人公・針塚圭介の信条を説明するまでのくだりの自然さなんかは、実に危なげない。ちょっと個人的に惜しいなと思ったのはその後、「秘密」という言葉が出てきてからだと思います。作品の根幹に関わる部分なのでおいそれと語ることができないのはわかるのですが、このレビューはその「秘密」をあくまでも「秘密」にしたまま、最後まで謎めいた書き方をしてしまうのですな。結果として「秘密」「嘘」「魔法」などの思わせぶりな言葉がどんどん増えていくわりに、針塚の身に何が起きたのかはどうも語られない。もちろん、作品を読み終わっている者にはわかるのですが、たぶんそうでない人には「何だか思わせぶりだな」くらいにしか伝わらないのではないでしょうか。ここをどううまく書くかというのは、いろいろやり方があると思います。「秘密」をばらしてしまうのもひとつの手ですし、ばらすわけにはいかないということを読者に説明するという手もあります。また、「秘密」に言及しながらレビューを書くのを諦めるというやり方だってあるでしょう。いずれにしても、ここをそのままにしてしまうと、このレビューの後半自体が丸ごと「秘密です」と書いてあるみたいになってしまうので、ちょっとご一考いただければと思います。ひとまずこのレビューは「銅」にいたします!

本文はここまでです。