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読者レビュー

銀

泉和良『おやすみ、ムートン』

青蒼なる盛装

レビュアー:ラム、ユキムラ

 日本で出版される書籍の多くにはカバーがついている。一部のソフトカバーや雑誌など以外、それらドレスコードを当然のようにまとっているのだ。
 先日、ある出版社は3・11ののちに書籍に帯をつけることをやめた、という新聞記事を読んだ。

 ――帯とは、一体いかな存在か?

 読者候補の誰かの目に留まるように、訴求効果を促すアクセサリーなのか。ゆえに表紙の一部を隠してまで、余分の一枚を見せつけてくるのか。
 表紙にはない言葉の刃で、相手に興味を刻み付ける算段なのか。

 そんなことをつらつら考えていたときに書店で出会ったのが、この本だ。
 鮮やかな蒼をした帯が、平積みされた一角でひどく映えた。
 其の帯の一文は、ある意味、「言葉」ですらない。吹き出しの中には、魂のカケラが見えた。常ならぬ表記、今まさに言葉になりゆく過程のような、未完成ゆえの尊さが垣間見えた気がした。
 大仰な言い方かもしれないけれど、「帯をまとった本」の状態が、ひとつの芸術に見えたのだ。

 ゆえに。
 私はこの本を書店で見つけてもらいたい。
 数多の、溢れる程の数の中から、この本の実物を双眸で味わってほしい。
 過剰なまでの多彩な本たちにうずもれることなく歴然とした蒼が、己が存在を殊更に主張しているから。


 ――宇宙の蒼を凝縮したような帯をまとった、この美しくも儚い物語に。

 きっと、貴方も魅せられる。

2013.06.22

ゆうき
むむっ!視点を変えて、本の外装についてまとめたレビューですね。書店で人を惹きつけ、手に取らせるきっかけとなるのが必ずしも言葉だとは限らない…。帯までじっくり吟味して本を選んでみたくなりました!
さやわか
作品の帯だけに注目した、面白いレビューです。そこで終わっていくのかと思いきや、最後にはきちんと作品内容に向けて着地しているようですね。結果的に読者に作品への興味を抱かせることに成功しているように思いました。謹んで「銀」とさせていただきたいと思います。もっとも、作品の帯、しかもその色味にだけ注目していくというやり方は、これだけの内容を書ける筆者にしては少しもったいないようでもあります。せめてもう少し具体的に、この帯がどのような見た目なのか、手触りのものなのかがわかるようになっていてもいいのではないでしょうか。それはこのレビューの美しさを崩すことになりますが、本来レビューというのは作品を紹介するものなので、そこはバランスを求めたいところです。いかがでしょう?

本文はここまでです。