サクラコ・アトミカ
想いは枠組みをこえる
レビュアー:zonby
「サクラコ・アトミカ」は私にとって非常に印象的な一冊だ。
私は私の知らない世界やルールが登場する、ファンタジックな世界観を好まない。
世界観を理解するだけで苦労するし、世界観が違うということはきっと登場人物も感性が違うだろうと思うと、どうしても共感しにくいし、物語に入りこめないのだ。
最初は半信半疑でページをめくった。
だって冒頭から「畸形都市」なんて聞きなれない言葉が出てくるのである。
畸形都市に囚われたあまりに美しすぎる姫。サクラコ。彼女の牢番を務める、ヒトの形をした異形・ナギ。都市を支配するは、天才・ディドル・オルガ。目的はサクラコを犠牲として原子の矢を放ち、他の都市を焼き尽くすこと。
固有の単語も、この世界を律するシステムも完全に理解するのは、難しかった。
でも。
最後まで読んだあと、私は泣いていた。
帯のキャッチコピーには「―――サクラコの美しさが世界を滅ぼす」とある。
魅力的で、的確な表現だと思う。
けれど私にとってこの本は「肉体という枠組を超越した「愛」の物語」だ。
人間にはどれだけの愛や、人を想う気持ちがあっても肉体の枠組みを超えることはできない。
人に気持ちを伝えるには、肉体を使い、あるいは肉体を使うことによって何らかの行動を起こして伝えるしかない。それしか、私達は方法を持っていない。
この物語でナギは、自在に身体の形を変える。腕を伸ばすこともでき、どんな異形の姿にも変化できる。ナギはサクラコへの想いだけを糧に人智の及ばぬ異形になって彼女のために歩き、挑んだ。
この物語でサクラコは、耐えがたい美少女だった。誰もが畏れ、敬い、跪かざるを得ない程の美しさを所有し、やがてその身体は美しいが故に原子の矢となった。身体を失い、しかし失ったからこそ無力であった彼女はナギと共に闘うことができた。
この物語のその点に、私は価値を見出し、何度でも泣いてしまうのだ。
現代を舞台にした小説では、これは味わえない感覚だと思う。
化け物になっても一人のことを思って彷徨う絶望。破壊兵器として原子になりながらも闘うと決める意思。誰かのため。誰か一人のためになら、ヒトの姿だって捨てよう。
ナギが化け物に、サクラコが原子になる過程が、自己犠牲で片づけられていないのも好きな点だ。
この物語を読んでいると、あまりの辛さに読むことが辛くなることもある。
今もそうだ。適当に開いた一ページを読んだだけで、自分が涙声になっているのに気づく。
でも最後まで読んで欲しい。
読み終えた時に、ふわり、と原子のサクラコに包まれ、その傍らでちょっと困ったような笑顔のナギがいてくれるような気がするから。
そうしてサクラコのこんなセリフが聞こえるはず。
「何を暗い顔をしておる!奇跡は起きる。おんしなら、大丈夫じゃ!」
そうやって背中を押されているような不思議な気分に
きっとなるから。
私は私の知らない世界やルールが登場する、ファンタジックな世界観を好まない。
世界観を理解するだけで苦労するし、世界観が違うということはきっと登場人物も感性が違うだろうと思うと、どうしても共感しにくいし、物語に入りこめないのだ。
最初は半信半疑でページをめくった。
だって冒頭から「畸形都市」なんて聞きなれない言葉が出てくるのである。
畸形都市に囚われたあまりに美しすぎる姫。サクラコ。彼女の牢番を務める、ヒトの形をした異形・ナギ。都市を支配するは、天才・ディドル・オルガ。目的はサクラコを犠牲として原子の矢を放ち、他の都市を焼き尽くすこと。
固有の単語も、この世界を律するシステムも完全に理解するのは、難しかった。
でも。
最後まで読んだあと、私は泣いていた。
帯のキャッチコピーには「―――サクラコの美しさが世界を滅ぼす」とある。
魅力的で、的確な表現だと思う。
けれど私にとってこの本は「肉体という枠組を超越した「愛」の物語」だ。
人間にはどれだけの愛や、人を想う気持ちがあっても肉体の枠組みを超えることはできない。
人に気持ちを伝えるには、肉体を使い、あるいは肉体を使うことによって何らかの行動を起こして伝えるしかない。それしか、私達は方法を持っていない。
この物語でナギは、自在に身体の形を変える。腕を伸ばすこともでき、どんな異形の姿にも変化できる。ナギはサクラコへの想いだけを糧に人智の及ばぬ異形になって彼女のために歩き、挑んだ。
この物語でサクラコは、耐えがたい美少女だった。誰もが畏れ、敬い、跪かざるを得ない程の美しさを所有し、やがてその身体は美しいが故に原子の矢となった。身体を失い、しかし失ったからこそ無力であった彼女はナギと共に闘うことができた。
この物語のその点に、私は価値を見出し、何度でも泣いてしまうのだ。
現代を舞台にした小説では、これは味わえない感覚だと思う。
化け物になっても一人のことを思って彷徨う絶望。破壊兵器として原子になりながらも闘うと決める意思。誰かのため。誰か一人のためになら、ヒトの姿だって捨てよう。
ナギが化け物に、サクラコが原子になる過程が、自己犠牲で片づけられていないのも好きな点だ。
この物語を読んでいると、あまりの辛さに読むことが辛くなることもある。
今もそうだ。適当に開いた一ページを読んだだけで、自分が涙声になっているのに気づく。
でも最後まで読んで欲しい。
読み終えた時に、ふわり、と原子のサクラコに包まれ、その傍らでちょっと困ったような笑顔のナギがいてくれるような気がするから。
そうしてサクラコのこんなセリフが聞こえるはず。
「何を暗い顔をしておる!奇跡は起きる。おんしなら、大丈夫じゃ!」
そうやって背中を押されているような不思議な気分に
きっとなるから。