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読者レビュー

銅

月の珊瑚

極上の御伽噺

レビュアー:大河 Novice

『奈須きのこ』の名を書店で見かけ、購入してから早1年と半年。
 誰でもない自分に急かされて、先日ようやく本を開いた。
”本に点数なんて付けられませんよ”
 読み終えて、それから。
 そんな言葉が頭をよぎった。
 
 恋愛の話としては王道的なもので、相互理解の叶わない、それでも想い合う二人を丁寧に描いている。『極上のSFラブストーリー』を謳うのは伊達ではないと思った。
 思った、が。
 私が圧倒されたのには、別の理由がある。

『御伽噺(童話)』
1. 大人が子供に語って聞かせる昔話や言い伝え。
2. 現実とは懸け離れた架空の話。夢物語。
(三省堂 大辞林より引用)
 目的としては、
・幼年期の子どもが言葉や文字を学ぶ
・美的感覚、善悪の判断等の情操教育や想像力や価値観を育成する
 ことが挙げられる。

 この作品は明確に童話であり、これ以上ないほどに御伽噺だ。月の珊瑚という作品は、読者に対して『夢物語/架空の話』という形を表し、また、作品中の登場人物に対して、子供への言い伝えとして機能している。
 御伽噺として記述される『過去』。
 成長を示す『現在』。
 二つの要素からなるストーリー。
 月の珊瑚は、作者が『現在』の登場人物に語って聞かせる昔話だ。そして、彼女らが読者に見せる御伽噺なのだ。奈須きのこが描く『過去』の物語は、確かな意味を持って、『現在』のキャラクターたちを成長させていく。あるいは、成長させている。退廃的な世界にあって、僅かであろうとも変化を生み出すそれは、なるほど確かに『夢物語』と呼べるだろう。
 本に点数を付けるべきではない。
 御伽噺。ありとあらゆる作品が、成長という結果をもたらすならば、そこに個別の評価など必要なく、ただ経験として蓄積するだけのものなのだろう。
 そんな思いを抱きながら、圧倒的な感動に呑まれていた。

2013.05.29

まいか
読書そのものが成長するための栄養素ですね。。
さやわか
曰く言い難い熱があって、そこがこのレビューの魅力になっていると思います。グッド! 「銅」といたしましょう! 「御伽噺」を巡る考察もなかなか興味深いのですが(「月の珊瑚」が竹取物語のような別離譚だと思えばなおさら)、「退廃的な世界にあって、僅かであろうとも変化を生み出すそれは、なるほど確かに『夢物語』と呼べるだろう」という部分だけがちょっとわかりにくかったです。辞書の定義を使えば「現実とは懸け離れた架空の話」であれば「夢物語」の条件としては十分なわけで、そこにあえて「成長」とか「変化」を見出すものこそ尊いとする理由を書き手は述べきっていない。推測すると「退廃的な世界では、成長ということ自体があり得ないような出来事=夢」であるという考え方なのだと思いますが、そこは言葉を補ってやったほうが効果的だと思いましたぞ!

本文はここまでです。