ここから本文です。

読者レビュー

銅

『サエズリ図書館のワルツさん』 紅玉いづき

物語を守る人

レビュアー:zonby Adept

ワルツさん。
職業はサエズリ図書館代表、特別探索員。
本というものが、本として製本されたものを読むことが珍しく、贅沢な趣味となった時代。
彼女はそこにいつも存在し、訪れた人に最もふさわしい、必要な、求める本を静かに差し出す。

ずっと、図書館の人になりたいと思っていた。今でも、結構まじめに思っている。
いつでも自分の好きな本に囲まれて、新刊や個人では手に入らない貴重な本。それらに触れて毎日を過ごす。
私は本が好きだ。
だからそんな毎日を過ごせたら、きっと楽しいだろうな、と想像する。
想像だけ、する。

けれど、本当に本を、物語を好きなだけではなく、「守る」ということは、楽しいだけでは済まないし、何かを負わねばならない時もあり得る、ということを、私はこの本を読んで考えるようになった。

本を読む趣味なんてなかった人、本を本当に必要としている人、本に思い出を持つ人。本に対していろいろな想いを持つ人が、サエズリ図書館を訪れる。
その中で私にとって一番強烈なエピソードは、一冊の本を盗んでしまった人の話だ。本を図書館に戻すためにやってきたワルツさんに、その人は言う。
「一冊ぐらい、一冊ぐらい、いいじゃないですか!!」
その本は一冊しかなかったのだ。
本当に、一冊しかなかったのだ。
ワルツさんは、渡さなかった。
ただ、こう言った。
「本は死にません」「わたしはここにいます」
と。
本が好きだから知っている。狂おしいほど手元な置きたい本があることを。
本が好きだから知っている。何冊もの本が、茶守ることのできる者の手になければ、いとも容易く消えていってしまうことを。

私はただの本好きで、図書館の人ではない。ワルツさんはキャラクターで、サエズリ図書館も存在しない。でも本だけは確かにここにある。本は、死なない。
私はワルツさんにはなれないけれど、でも、本を、物語を守る人にはなれるかもしれない。
だからせめて、こう言おう。
私の力では守り切れないものはたくさんあるだろうけれど。
それでもせめて。
本に触れる全ての人に。
「それでは、よい読書を」
と。

2013.05.29

ゆうき
「好き」という気持ちと、「守る」という行為を両方成立させるのはとても大変なことですよね。自分の出来ることにも限界があるのかもしれません。だけど、zonbyさんの本が大好きだという想いがしっかり伝わってきました。その気持ちが本と、本を読む全ての人を守ってあげているような気がしました。zonbyさんの気持ち、伝わりますように!
さやわか
今回、zonbyさんが送ってくださった中では最も語調に個性があるレビューだと思います。しかもちゃんと読者に作品への気持ちが伝わるようになっている。ちゃんと読まれることを意識して書いている感があるのが読み手としてはうれしいですね。「銅」にさせてください。では「銀」を目指すにはどうするといいでしょうかね? たぶん「本は死にません」「わたしはここにいます」「それでは、よい読書を」などのセリフの部分をもう少し作品に即して具体的にしてあげてもいいかなと思いました。今のままだと、ちょっと間投詞的に投げかけられた感が強いので、特に最後なんかは「zonbyさんの中には何か思いがあるのだろう」と推測するくらいしかできません。そこが読者と共有できるようになっていると、もっとこのレビューは広がりを持つと思いますぞ。

本文はここまでです。