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読者レビュー

銅

『レッドドラゴン』

a blind spot

レビュアー:ラム、ユキムラ

人形浄瑠璃は、三味線が伴奏をし、太夫が義太夫節を語り、黒子が操り人形に息吹を与えて紡ぐ伝統芸能。太夫の語る詞章はセリフや仕種・描写も含むから、【歌う】ではなく【語る】という。
そして、人形は黒子三人で動かしている。

『レッドドラゴン』もまた、この芸術と同じような共同作業である。
RPFには音楽があり、FMは太夫のような役割を担う。プレイヤーも語りはするけど、どちらかと言えば人形を動かしている黒子だ。見えているけどいない存在。否、いるけど見えない存在という方が正しい。人形が一人で勝手に動くワケがない。人間が動かしている それは当たり前のこと。
けれど、人形浄瑠璃を楽しむ為に、上演中は見えないことになっている。
主役は人形。
人間の目も便利なもので、演目に集中すると黒子なんて視界から消えてしまう。見えてはいるのだろうけど、意識しないと、いなくなる。
そして、観客に自らの存在を意識させないことが優れた黒子の素質のひとつなのだろう。


FMの三田誠さんは、たくさんのキャラを演じている。
メイドのメリル、妖剣・七殺天凌、急拵えの栄さん、忌ブキの幼なじみ真シロちゃん、ほか多数。
FMからそのキャラに移ると、三田誠はすぐに見えなくなる。FMは他のプレイヤーよりも余程、素をさらしているハズなのに。
奈須さんとの掛け合い、虚淵さんとの掛け合い......オッサンから幼女、果ては竜や剣、三田さんの演じる存在は老若男女に収まらない。
ストーリー進行を司るFMの三田さんは、太夫に近いポジションでありながら、それと同時に優れた黒子でもあるのだと思う。
スアローとメリルとの掛け合いを、いい年した(であろう)男性二人の声で再生してごらんよ。



……………(イメージ再生中)……………………メリルぅぅぅ!!!!!



ねぇねぇ、マジでイメージぶっこわれない? 今イメージしちゃった自分を責めて後悔してるでしょ? メリルだけじゃなく、真シロちゃんもさ。
それくらいに、しまどりるさんのイラストに違和感ないキャラを三田さんは演じられるのだ。

舞台で、黒子ばかり凝視するような無粋な真似をしてはいけない。
『レッドドラゴン』でも、貴方の楽しみを邪魔したくない……のだけどでも、読後に少し思い返してみてほしい。
「貴方には、そこにいる三田誠が見えていましたか?」

最前線で『レッドドラゴン』を読む

2012.05.18

のぞみ
なんと!『レッドドラゴン』は、あの伝統芸能『人形浄瑠璃』のようなものなのですね~!!
さやわか
最近はTRPGという形式を別のものにたとえて書かれるレビューが多くて、なかなか興味深いですな。このレビューはとにかく愛情も感じられるもので「銅」をまずは与えようと思いますぞ!
のぞみ
なんだか納得して、読んでる間、口から「ほぉ~」ってもれていましたわ(笑)。
さやわか
他ジャンルの興味深い事実と比較しながら書くのは、それ自体が目的化してしまうとまずいのですが、レビューに明らかに広がりができるのですごくいいですな。このレビューの場合も、文中のメリルから三田さんという人物のイメージが消えてしまうことを指して「黒子」の比喩がうまい具合にはまっている。よいと思いますぞ! もし、願えるならば、比較した上で(あれとこれが似ているということを指摘した上で)、もう半歩ほど論理的に踏み込んだ結論があるといいかなと思います。つまり「浄瑠璃の黒子とFMは似ている」から「三田さんはよい黒子である」という部分までは書いてある。それがそれはバラバラの事物をイコールで結んだところまでです。最終的に「よい黒子であるということは○○ということである」という結論があるといいな、ということですな。もし機会があれば考えてみてくだされ!

本文はここまでです。