青春離婚
スクロールで消える筆致
レビュアー:6rin
高校生の郁美と灯馬は苗字が同じという理由で、クラスメイトに冗談で夫婦扱いされる。本作はそこから始まる郁美の灯馬への淡い恋ごころを描く。キャラクターや背景、小物など全てがいかにもフリーハンドというタッチで描かれ、恋ごころの揺れや温かみが、その柔らかにたわんだ描線を通して伝わってくる。
注目すべきは、メールの文字列すらフリーハンドで書かれていることだ。現実に即すなら、メールはコンピュータが画面につくり出す人間臭さのない筆致として再現される。しかし、郁美の携帯に表示される灯馬からのメールは人間臭さのある手書きとして描かれている。郁美がメールを読む際、郁美とメールの間には灯馬への人間臭い想いが介入する。手書きメールのくねくねはその介入を示しているのだ。
メールの筆致という細かいところで心情を表現していて巧いなあと思う。
そしてフリーハンドを活かして描かれた甘酸っぱい高校生の恋ごころは、コマ割りによってさらに魅力を増している。
コマ割りは漫画の印象、面白さに大きく関係する。だからコマ割りには工夫が施されるのが一般的である。しかし本作のコマ割りは、横倒しになった同じ大きさの長方形のコマが縦一列に並んだシンプルなものだ。一見、工夫がないようにも思える。
だが実際にはそうではないことが作品を読めばわかるだろう。本作のコマ割りは、スクロールという電子書籍ならではの要素を上手く活かしているのだ。
読者が続きのコマを読むために画面をスクロールする。すると隙間なく帯状に連なったコマが、平らな画面を上へと滑る。時間を切り取ったコマが、ベルトコンベアに載せられているかのように画面の下から読者の目の前に運ばれてくるのである。どんな瞬間をも粛々と過去へ押しやる時間の流れを、このコンベアのベルトが読者にくっきりと感じさせる。このベルトが、コマが切り取る時間やそこでの出来事がすぐに過去になることを強調し、時間と出来事を儚いものとして演出するのだ。郁美の甘酸っぱい恋ごころも儚いものとして演出される。それによって、その恋ごころがより掛替えのない貴いものに感じられ、読者は郁美と灯馬の関係の展開がもっと気になるようになるのである。
本作はフリーハンドとコマ割りによって恋ごころを魅力的に描く素敵な漫画だ。しかしまだ完結しておらず、嬉しいことに続きが読める。ここから郁美の恋の行方はどう描かれていくのだろうか。楽しみである。これまでの縦一列のコマ割りから突然違うコマ割りに変わる、なんてこともあるかもしれない。極めてシンプルなコマ割りを採用した大胆な作者のことだ。何があってもおかしくない。
最前線で『青春離婚』を読む
注目すべきは、メールの文字列すらフリーハンドで書かれていることだ。現実に即すなら、メールはコンピュータが画面につくり出す人間臭さのない筆致として再現される。しかし、郁美の携帯に表示される灯馬からのメールは人間臭さのある手書きとして描かれている。郁美がメールを読む際、郁美とメールの間には灯馬への人間臭い想いが介入する。手書きメールのくねくねはその介入を示しているのだ。
メールの筆致という細かいところで心情を表現していて巧いなあと思う。
そしてフリーハンドを活かして描かれた甘酸っぱい高校生の恋ごころは、コマ割りによってさらに魅力を増している。
コマ割りは漫画の印象、面白さに大きく関係する。だからコマ割りには工夫が施されるのが一般的である。しかし本作のコマ割りは、横倒しになった同じ大きさの長方形のコマが縦一列に並んだシンプルなものだ。一見、工夫がないようにも思える。
だが実際にはそうではないことが作品を読めばわかるだろう。本作のコマ割りは、スクロールという電子書籍ならではの要素を上手く活かしているのだ。
読者が続きのコマを読むために画面をスクロールする。すると隙間なく帯状に連なったコマが、平らな画面を上へと滑る。時間を切り取ったコマが、ベルトコンベアに載せられているかのように画面の下から読者の目の前に運ばれてくるのである。どんな瞬間をも粛々と過去へ押しやる時間の流れを、このコンベアのベルトが読者にくっきりと感じさせる。このベルトが、コマが切り取る時間やそこでの出来事がすぐに過去になることを強調し、時間と出来事を儚いものとして演出するのだ。郁美の甘酸っぱい恋ごころも儚いものとして演出される。それによって、その恋ごころがより掛替えのない貴いものに感じられ、読者は郁美と灯馬の関係の展開がもっと気になるようになるのである。
本作はフリーハンドとコマ割りによって恋ごころを魅力的に描く素敵な漫画だ。しかしまだ完結しておらず、嬉しいことに続きが読める。ここから郁美の恋の行方はどう描かれていくのだろうか。楽しみである。これまでの縦一列のコマ割りから突然違うコマ割りに変わる、なんてこともあるかもしれない。極めてシンプルなコマ割りを採用した大胆な作者のことだ。何があってもおかしくない。
最前線で『青春離婚』を読む