「Fate/Zero」
一人の男を巡る二人の女の関係
レビュアー:zonby
衛宮切嗣とアイリスフィール。そして久宇舞弥。
この三人の関係性ほど、私を惹きつけるものはない。
特にアイリスフィールと舞弥の、友情に似たけれど多分友情ともまた違う感情の交錯を、興味深く。同時にその付かず離れずの距離感を羨ましく思ったりもする。
「Fate/Zero」は単純に説明してしまえば、一つの宝を巡る闘いの物語だ。
その中には様々な立場にそれぞれの動機、野心、願いを持った魔術師と、同じくそれぞれにまた目的や考えを持った英霊が現れる。
魔術師と英霊。
マスターとサーヴァント。
通常であれば、この関係性こそが物語を盛り上げる大きな要因の一つであると思う。
互いに一つの道具であろうとする切嗣とセイバーの、徹底して温度の感じられない関係性は何かやりきれなく思うし、反対に豪放磊落なライダーとどこか未熟な感じのするウェイバーのやりとりは闘いのさなかにあってさえ、微笑ましく感じてしまう。自分の身体と引き換えにしてでも守りたい者のために、契約を結ぶ者。あるいはサーヴァントの暴走や、能力に魅了されてしまうマスターなど、単なる主従の関係に留まらない人間対(元)人間が故に起こるイレギュラーな出来事が「Fate/Zero」を単調な、バトル・ロワイヤルからもう一歩も二歩も踏み出した領域に踏み出させているのだと思う。
さて、ここでもう一歩。
物語の中に関わってくるのは、マスターとサーヴァントだけではない。
衛宮切嗣に関わってくる、これもまた道具であり妻でもあるホムンクルス。アイリスフィール。
切嗣のアシスト的役割をする久宇舞弥。直接的には聖杯戦争に関わりがないものの、この二人の女性の存在が、「Fate/Zero」における衛宮陣営を彩るもう一つの関係性だろう。
女性というならば、セイバーもここに含まれるのかもしれない。しかし、切嗣に対しサーヴァントという
立場上、彼女はこの関係性から除かれる。
あくまで魔術師でも、英霊でもないからこそ、この二人は異彩を放っているのだ。
一人の男に二人の女。
普通に考えればどろっどろの三角関係である。
舞弥が登場した当初は、アイリスフィールも複雑な感情を抱いていたようだったし、読者である私もそんな展開を想像した。けれど、そこに転ばなかったのが更に私の興味をひいた点でもある。
と、同時に不思議な関係だ、とも思う。
二人の目的は明確としている。
―――全ては衛宮切嗣のために。
その目的が二人を結びつけ、更に同性であるということが、その繋がりをより強固にしているように私には感じられた。
片や聖杯戦争を有利に進めることだけを目的につくられたホムンクルスという道具。
片や切嗣に拾われ、闘いの道具となることを叩き込まれて育った子供。
しかし道具である以前に彼女達は、れっきとして女である。
互いの持つ境遇さえなければ、聖杯戦争などというものに関わることもなく、同時に衛宮切嗣という自分の人生を大きく変える人物にも出会わず、普通の人間。普通の女。あるいは生まれることすら。生き残ることすらできなかった女達。
彼女達は切嗣という男を――例えどのような形であれ――愛していたに違いない。
それは女性とはいえ、男性として生きた過去を持つセイバーには、現時点ではきっと理解できないものだ。
「Fate/zero」の中で、実は対等な関係を結んでいたのは彼女達だけだったのではないか、と私は思う。マスターとサーヴァントは基本的に主従の関係であるし、魔術師同士の中でも立場の軋轢はある。またサーヴァント同士の中でも、微妙な力関係や相対があった。
彼女等にそれがなかったとは言えない。
舞弥にはアイリスフィールを守るという役割があった。
それでも、二人は対等だったと私は言い切りたい。
二人が感じていた感情が、友情などという簡単にまとめられるものでないことも分かっている。しかし私は思いたいのだ。二人の女の間には、例えおかれた境遇が違っても何か繋がるものがあったのだと。
―――全ては衛宮切嗣のために。
二人にその確固たる目的があるがゆえに。
二人にその確固たる目的がなかったとしても。
最前線で『Fate/Zero』を読む
この三人の関係性ほど、私を惹きつけるものはない。
特にアイリスフィールと舞弥の、友情に似たけれど多分友情ともまた違う感情の交錯を、興味深く。同時にその付かず離れずの距離感を羨ましく思ったりもする。
「Fate/Zero」は単純に説明してしまえば、一つの宝を巡る闘いの物語だ。
その中には様々な立場にそれぞれの動機、野心、願いを持った魔術師と、同じくそれぞれにまた目的や考えを持った英霊が現れる。
魔術師と英霊。
マスターとサーヴァント。
通常であれば、この関係性こそが物語を盛り上げる大きな要因の一つであると思う。
互いに一つの道具であろうとする切嗣とセイバーの、徹底して温度の感じられない関係性は何かやりきれなく思うし、反対に豪放磊落なライダーとどこか未熟な感じのするウェイバーのやりとりは闘いのさなかにあってさえ、微笑ましく感じてしまう。自分の身体と引き換えにしてでも守りたい者のために、契約を結ぶ者。あるいはサーヴァントの暴走や、能力に魅了されてしまうマスターなど、単なる主従の関係に留まらない人間対(元)人間が故に起こるイレギュラーな出来事が「Fate/Zero」を単調な、バトル・ロワイヤルからもう一歩も二歩も踏み出した領域に踏み出させているのだと思う。
さて、ここでもう一歩。
物語の中に関わってくるのは、マスターとサーヴァントだけではない。
衛宮切嗣に関わってくる、これもまた道具であり妻でもあるホムンクルス。アイリスフィール。
切嗣のアシスト的役割をする久宇舞弥。直接的には聖杯戦争に関わりがないものの、この二人の女性の存在が、「Fate/Zero」における衛宮陣営を彩るもう一つの関係性だろう。
女性というならば、セイバーもここに含まれるのかもしれない。しかし、切嗣に対しサーヴァントという
立場上、彼女はこの関係性から除かれる。
あくまで魔術師でも、英霊でもないからこそ、この二人は異彩を放っているのだ。
一人の男に二人の女。
普通に考えればどろっどろの三角関係である。
舞弥が登場した当初は、アイリスフィールも複雑な感情を抱いていたようだったし、読者である私もそんな展開を想像した。けれど、そこに転ばなかったのが更に私の興味をひいた点でもある。
と、同時に不思議な関係だ、とも思う。
二人の目的は明確としている。
―――全ては衛宮切嗣のために。
その目的が二人を結びつけ、更に同性であるということが、その繋がりをより強固にしているように私には感じられた。
片や聖杯戦争を有利に進めることだけを目的につくられたホムンクルスという道具。
片や切嗣に拾われ、闘いの道具となることを叩き込まれて育った子供。
しかし道具である以前に彼女達は、れっきとして女である。
互いの持つ境遇さえなければ、聖杯戦争などというものに関わることもなく、同時に衛宮切嗣という自分の人生を大きく変える人物にも出会わず、普通の人間。普通の女。あるいは生まれることすら。生き残ることすらできなかった女達。
彼女達は切嗣という男を――例えどのような形であれ――愛していたに違いない。
それは女性とはいえ、男性として生きた過去を持つセイバーには、現時点ではきっと理解できないものだ。
「Fate/zero」の中で、実は対等な関係を結んでいたのは彼女達だけだったのではないか、と私は思う。マスターとサーヴァントは基本的に主従の関係であるし、魔術師同士の中でも立場の軋轢はある。またサーヴァント同士の中でも、微妙な力関係や相対があった。
彼女等にそれがなかったとは言えない。
舞弥にはアイリスフィールを守るという役割があった。
それでも、二人は対等だったと私は言い切りたい。
二人が感じていた感情が、友情などという簡単にまとめられるものでないことも分かっている。しかし私は思いたいのだ。二人の女の間には、例えおかれた境遇が違っても何か繋がるものがあったのだと。
―――全ては衛宮切嗣のために。
二人にその確固たる目的があるがゆえに。
二人にその確固たる目的がなかったとしても。
最前線で『Fate/Zero』を読む