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読者レビュー

銅

「Fate/Zero」

それもまた「Fate」に至る一つの扉だった

レビュアー:zonby Adept

名前は聞けど、触れえぬもの。
姿は見れど、よくは分からぬもの。
本はあれど、開かぬもの。
――それが私にとっての「Fate」だった。

いつかはちゃんと把握するつもりでいた。しかし、とうとうここまできてしまったのには理由がある。
「Fate」という世界観があまりにも巨大すぎる、と感じていたからだ。
オリジナルから始まった世界。物語は枝分かれし、キャラクターは様々な顔を持つ。また「Fate」という物語を支配する、独特のルール。独自の専門用語は、少し触れただけでは混乱を招くばかりで、余計に苦手意識がつのるばかりだったのだ。
英霊ってなんですか、に始まり
マスター?サーヴァント?聖杯戦争?クラス?宝具?固有スキル?マジュツ回路?セイバー?何なの?なんか闘う話なの?ゲームなの?四次とか五次とか、キャラクター何人いるの?
…。
……。
理解放棄。
興味はある。理解はしようとする。
けれど、あまりに膨大な情報量に圧倒されてすごすごと引き下がるのが常であった。

ありがちな例えで言えば、30巻以上まで巻を重ね、尚かつまだ連載の続いている漫画においそれと手を伸ばせない感覚とでも言おうか。いや、それならまだ良い。遅れはとっても1巻から順に読んでいけば良いのである。
問題は「Zero」だ。
起源となった本編でも、本編から発展した先でもない、本編の前の物語なのである。
私は原作至上主義者ではない。
だがこの「Fate」の後にくっついた「Zero」が、より私の食指を鈍らせた。

本編すら把握していない者が、果たして本編に至る物語になど手を出して良いものか…!

あくまで「Fate」とは「Fate/stay nighat」が母体な訳で、それを起点に他の関連した物語は広がってきていたはずなのである。更に言えば「Fate/stay night」で繰り広げられた一連のお話。キャラクター達の関係性や、結末を知った上で読んだ方がより一層楽しんで読めるのではないか、という本読みびととしての貪欲さが、私の手を止めていた。
分かっている。
これは完全に私の自意識の問題だ。しかし、世界は広い。同じ理由で「Fate/Zero」に手を出せないでいる輩がいないとも限らないので書いておこう。

「Fate/Zero」もまた、「Fate」の世界を彩る一つの欠片にしか過ぎない。

確かに時系列の問題はある。「Fate/Zero」は「Fate/stay night」より前の物語だ。
だが、純然とした一つの物語だ。
私が疑問に思っていた単語や、その世界観を司るルールも、「Fate/Zero」を読むことで明らかになった。ある意味で言えばこれで私は、より「Fate」を理解し楽しむことができるようになったということだろう。

あまりに巨大すぎる物語の前に、巨大になりすぎた物語の前に、手も出せず立ちすくむことは多々ある。
その起源に固執するあまり余計に近寄ることができなくなることもあるだろう。そんな時は、一番身近にある作品に触れることが重要だ。巨大な物語は、巨大なだけ数多くの入口や扉が存在する。
「Fate/Zero」もその一つ。

安心して欲しい。
「Fate/Zero」は一個の物語として完成しているだけでなく、「Fate/stay night」へのみちしるべを示してくれる。
安心して欲しい。
「Fate/Zero」によって開かれた扉は、やがて根幹と至る「Fate」そのものへの道でもあるのだ。

2012.01.17

のぞみ
そうなんですよね! きっと手を出したいのにやめてしまっている人がまだ沢山いると思うんです。もったいないですわよね!
さやわか
たしかに、『Fate/Zero』は『Fate/stay night』という「母体」があるし、ルールも初めてだと取っつきにくいところがあるかもしれません。シリーズを続けている大ヒット作ではたまに見られることですね。
のぞみ
もっとたくさんの人に知ってもらえたらいいなぁと思いますわ(´・ω・^*)
さやわか
そう、zonbyさんのレビューは、そのために書かれていると言っていいでしょう。未読の読者の目線に立って書いているのはとてもいいことですね。ちょっと残念なのは、具体的になぜ、『Fate/Zero』を楽しむことができたのかという点が曖昧かな、ということです。つまりこのレビューは、これがどんな作品なのかはほとんど伝えていないのですよ。せっかく未読の読者の目線に立っているにもかかわらず、「『Fate/Zero』を知らないすべての人」ではなくて、「『Fate/Zero』が何なのかは理解しているけど、読むかどうか迷っている人」に向けた文章になっているわけですね。つまり、広いようで実はやや狭い読者層を対象にレビューを書いている。いずれにせよ、ここでは「躊躇している人もいるだろうけど、読めるから大丈夫だよ」という内容を書くという目的の確かさ、読書に対する愛情を買って、「銅」にさせていただきました。

本文はここまでです。