ここから本文です。

読者レビュー

銀

ひぐらしのなく頃に

『ひぐらし』はグロいから嫌い

レビュアー:enoki Novice

僕は『ひぐらしのなく頃に』が嫌いだ。中学校時、友人の家で漫画『鬼隠し編』を開いて、閉じた。
 嫌いな理由は単純明快、やたらとグロいからだ。
 僕はグロが嫌いなのではない。意味のないグロさが嫌いなのだ。物語の構成上など必要な効果を狙って書かれたグロならばむしろ賞賛をもって受け入れる。
 しかし、中学校時の僕には『ひぐらしのなく頃に』は受け入れられなかった。漫画版だけであったが、その時刊行されていたものにはもちろん最後まで目を通した。最後まで読み終わってさえ、そのグロさに、理由を認められなかったのである。

それから数年後、僕は星海社ウェブサイト最前線にて、おかしなものを見つけた。

 『はるかぜのふく頃に』なる対談企画らしい。内容はというと、『ひぐらし』の作者竜騎士07と、かの泣く演技で有名なはるかぜちゃんが、対談した、その様子が載せられているのだった。
 僕は首をひねった。何が起きればこの二人が対談するなんてことになるのか。
 『ひぐらし』は嫌いだ。興味なんて毛ほどもない。……しかし、気になる。この妙なマッチング、予想に反して気弱そうな竜騎士07の顔、はるかぜちゃんのネコミミメイド。どうにも気がひかれる。
 結論をいえば、僕は好奇心に負け、おとなしくサイトを開いたのだった。


 対談の内容について詳しく書くつもりはない。ただ、僕にとっては非常に有意義な内容であったことは記しておきたい。
 僕は『ひぐらし』が不必要に多いグロがあるから嫌いだ、と上に記した。星海社『ひぐらし』特設ページのスペシャル欄にある竜騎士07の

「『ひぐらしのなく頃に』という物語は、不気味なイメージが有名になってしまい、一般的には「怖い」作品であるとのご評価をいただいています。」

というメッセージからも『ひぐらし』がそのグロさ、怖さから一部または多くの人に敬遠されているだろう事が覗える。アニメの放送中止はそれを如実に表しているだろう。
 僕は、そういう人にこそ、この対談を見てもらいたい。当然、本当なら作品をよく読んで、理解してもらうのがいい。けれどそれでも分からなかった僕のような人にこそ、見てもらいたいのだ。
 この対談では、『ひぐらし』におけるグロさの狙いがしっかりと言われている。「グロいから嫌いだ」、この理由に対する否定が述べられているのだ。ディスコミュニケーションのもたらす悲劇――『ひぐらし』の必須要素としてグロはあるのだ、と。


 はるかぜちゃんと竜騎士07の対談は、僕に『ひぐらしのなく頃に』の読み方を教えてくれた。それは作者から提示されるという読者にとって最も恥ずべき形ではあったが、一大ムーブメントを巻き起こした作品を理解できるのだから、文句は言えない。

 僕は『ひぐらし』が嫌い、だった。だからこそ、僕と同じく蒙昧な『ひぐらし』嫌いの読者は、このスペシャルな対談を見てみてほしい。ここから始まる一歩というものがあってもいいだろう? 


 大丈夫だ、そのグロさには理由がある。

2011.09.30

のぞみ
どんな形であれ、作品に触れてほしいなって気持ちが感じられました。
さやわか
この書き方はシンプルな仕掛けですが、うまいと思います。自分はあまり好意的な読者じゃなかったけど、とりわけポイントとなる出来事があって、評価が逆転する。だから他の人にも読んでほしいということですね。レビューの書き方としては古典的なパターンかもしれないのですが、それが過不足なく書けていると思います。
のぞみ
ちなみに、私も、グロいもの苦手ですわ~。だけど、「ひぐらし」はついつい見ちゃうような不思議な魅力がありますよね~。
さやわか
うむ。そこはわりと重要かも知れません。enokiさんは実は、「グロいのに理由がある」からいいのだとは言っていますが、グロいのに理由があることを知れば、誰でも楽しく読めるようになるとは言っていないんですね。だからグロいのが嫌な人にとっては、どんな理由があろうとやっぱり『ひぐらし』はあんまり楽しくない読み物かもしれない。しかし、その事実を文章上で隠蔽することに成功していると思います。うまいのはそこです。その矛盾に踏み込まなければならない書き方もあるのですが、これはそうはなっていない。いいのではないでしょうかね? ということで「銀」とします。一点だけ、自分以外の読者を「蒙昧」とまで貶めて作品を称揚してしまうと、わりと読んだ人から反感を買いやすいと思います。言ってもいいけど、読者自身の態度に言及する際は一定の配慮がなされているといいですな。

本文はここまでです。