「星の海にむけての夜想曲」
魅惑的な絶望
レビュアー:zonby
この物語には「悲しみ」が「諦観」が「絶望」が、そういったある種の終末感が小説の末尾に至るまで染み込んでいるように感じる。
それは極めて静かな「絶望」の雰囲気だ。
絶望が恒常化し、ゆっくりと終わってゆく世界を見つめ続けているような。死んでゆく何かに手を伸ばすことをせず、じっとただ側にうずくまっているような。
その世界観を、私はとても魅惑的だと思う。
かつて「戦慄の十九歳」と呼ばれ、出版された作品である「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」にも、「絶望」や「悲しみ」、「終末感」などは色濃く漂っていた。しかし、同じ「絶望」や「悲しみ」であっても、そこにあったのはもっと激しい感情を伴っていたように思う。徹底的な暴力描写や、揺れ動く主人公の心の動きはめまぐるしく、読者は読み終わった後に自分の心の中にある暗い部分を掻き乱されることになる。
そんな作品でデビューした佐藤友哉がここにきて差し出してきたこの作品に、彼の辿った十年間を感じさせた。
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星について知ることが規制された世界。
星空が広がるはずの天空は花に覆われ、その花の影響で「花粉病」という病が蔓延する世界。
七月七日。「花粉の日」
七月七日に特別な意味を持つ僕は、本来ならばいてはいけない学校にいて、そこで一人の女生徒に遭遇する。たった独りの天文部員である、江波。どうしてここにいるのか、と問いただす僕に彼女は答える。
「星を見にきたんです」
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短い小説である。
しかし、なぜだか壮大な物語を読み終えたような気分になった。
想像する。
天空を覆う色とりどりの花を。舞い散る花弁の色彩を。諦観した世界を。物語全体にひたひたと漂う終末感を。
静かだ。
でも、綺麗だ。
絶望的だ。
でも、その底にずっと沈んでいたいとも思う。
絶望的な状況を描いた小説だというのに、その世界観は酷く儚く魅惑的で、蠱惑的だ。
物語の最後には、希望もちゃんと用意されている。
けれど、それすらも絶望の内の希望にしかすぎないなどと言ったら、私はこの作品を貶めていることになるだろうか?
だがしかし少なくとも私は、この物語を絶望の物語だと認識する。
とても魅惑的な絶望の物語だと認識する。
終わってゆくことを前提としたこの物語の世界観に、ゆったりと身を横たえていたい。夜空ではなく、花に覆われた天空に静かに絶望していたい。例えばそれをはるかに上回る絶望や奇跡が、一瞬物語をかすめたとしても、そしてそれに感動する人達がいたとしても、私はそれを横目にするだけだ。
星の海は見えない。
簡単には見えない。
星の海は天空を覆う花の向こう側にある。
この魅惑的な絶望の向こう側に。
私はいつまでもそこに浸っていたい、と思う。
絶望的な840年の時間の中に。
それは極めて静かな「絶望」の雰囲気だ。
絶望が恒常化し、ゆっくりと終わってゆく世界を見つめ続けているような。死んでゆく何かに手を伸ばすことをせず、じっとただ側にうずくまっているような。
その世界観を、私はとても魅惑的だと思う。
かつて「戦慄の十九歳」と呼ばれ、出版された作品である「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」にも、「絶望」や「悲しみ」、「終末感」などは色濃く漂っていた。しかし、同じ「絶望」や「悲しみ」であっても、そこにあったのはもっと激しい感情を伴っていたように思う。徹底的な暴力描写や、揺れ動く主人公の心の動きはめまぐるしく、読者は読み終わった後に自分の心の中にある暗い部分を掻き乱されることになる。
そんな作品でデビューした佐藤友哉がここにきて差し出してきたこの作品に、彼の辿った十年間を感じさせた。
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星について知ることが規制された世界。
星空が広がるはずの天空は花に覆われ、その花の影響で「花粉病」という病が蔓延する世界。
七月七日。「花粉の日」
七月七日に特別な意味を持つ僕は、本来ならばいてはいけない学校にいて、そこで一人の女生徒に遭遇する。たった独りの天文部員である、江波。どうしてここにいるのか、と問いただす僕に彼女は答える。
「星を見にきたんです」
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短い小説である。
しかし、なぜだか壮大な物語を読み終えたような気分になった。
想像する。
天空を覆う色とりどりの花を。舞い散る花弁の色彩を。諦観した世界を。物語全体にひたひたと漂う終末感を。
静かだ。
でも、綺麗だ。
絶望的だ。
でも、その底にずっと沈んでいたいとも思う。
絶望的な状況を描いた小説だというのに、その世界観は酷く儚く魅惑的で、蠱惑的だ。
物語の最後には、希望もちゃんと用意されている。
けれど、それすらも絶望の内の希望にしかすぎないなどと言ったら、私はこの作品を貶めていることになるだろうか?
だがしかし少なくとも私は、この物語を絶望の物語だと認識する。
とても魅惑的な絶望の物語だと認識する。
終わってゆくことを前提としたこの物語の世界観に、ゆったりと身を横たえていたい。夜空ではなく、花に覆われた天空に静かに絶望していたい。例えばそれをはるかに上回る絶望や奇跡が、一瞬物語をかすめたとしても、そしてそれに感動する人達がいたとしても、私はそれを横目にするだけだ。
星の海は見えない。
簡単には見えない。
星の海は天空を覆う花の向こう側にある。
この魅惑的な絶望の向こう側に。
私はいつまでもそこに浸っていたい、と思う。
絶望的な840年の時間の中に。