「iKILL」2 狼なんか怖くない Never Trust Under 14
狼はどこにいるのか
レビュアー:zonby
♪狼なんか怖くない 怖くないったら怖くない 狼なんか怖くない~
「iKILL」の第二話を読み始めてしばらくした頃から、私の頭の片隅では自然にこの歌が流れていた。無邪気で陽気な旋律のはずなのに、どこか陰鬱で淡々とした平坦なリズムで。
そして。
そのリズムに合わせて、物語の中では一人の少女が、バスルームに転がる男の死体を解体していた。最初は、そのあまりに現実離れした光景に立ち竦む少女だがおずおずと、やがて大胆に死体解体へとのめりこんでゆく。
その解体におけるあまりにリアルで、生っぽい描写が好きだと言ったら、誰か私を軽蔑するだろうか。
無論、それが単純に死体損壊に対する憧憬や、ましてや自分もやってみたいなどという気持ちからの「好き」ではないことをここに明記しておく。
私が強烈に惹きつけられたのは、目に浮かんでしばらく忘れられない程鮮やかな死体の描写だ。流れ出る体液。砕ける骨。引きずり出される内臓のリアル。特にフードプロセッサで手を解体する場面の描き方は、他に見たことがなく新鮮だった。
また、解体の作業を進める少女が世にもおぞましいことをしているというのに、だんだん読み手である自分と同化するような感覚が、不気味で何故か――何故だか心地よかったのだ。全ての作業が終わって少女が感じた誇らしさを、私自身も共有してしまう程に。私自身が、何か特別なことをやり遂げたのではないかと錯覚してしまう程に。
絶対に実現してはならない悦楽、というものがここにはある。
現実で得てはならない達成感、というものがここにはある。
死体を解体する行為自体にではない。
それらは死体を解体した後にやってくる。
でも、それらを味わうのは物語を読んでいる間だけにした方が良いだろう。
気をつけろ。
「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
なんてことを、どこかの偉い人が言っているから。
私は死体解体になんて縁がないし(縁なんかあったら困る)、幸い本気で人を殺そうと思ったことは一度もない。けれど、この物語に惹かれたのにはやはり、自分の中にある何かが反応したからなのだろう。
例えば、私の中にいる「狼」、みたいなものが。
そいつは残酷な物語に反応して牙を向き、唸り声を立てる。いつでも攻撃できるよう姿勢を低くして、血の匂いを敏感に嗅ぎ分ける。
だから。さあ、小さな声で歌おう。
♪狼なんか怖くない 怖くないったら怖くない 狼なんか怖くない~
自分の中の「狼」をなだめるために。飼いならすために。手懐けるために。「iKILL」ために必要でも、「狼」を否定しなければならない。
物語の中の少女のように狼になってしまえば、本当に狼が怖くなくなると知っていても。
「iKILL」の第二話を読み始めてしばらくした頃から、私の頭の片隅では自然にこの歌が流れていた。無邪気で陽気な旋律のはずなのに、どこか陰鬱で淡々とした平坦なリズムで。
そして。
そのリズムに合わせて、物語の中では一人の少女が、バスルームに転がる男の死体を解体していた。最初は、そのあまりに現実離れした光景に立ち竦む少女だがおずおずと、やがて大胆に死体解体へとのめりこんでゆく。
その解体におけるあまりにリアルで、生っぽい描写が好きだと言ったら、誰か私を軽蔑するだろうか。
無論、それが単純に死体損壊に対する憧憬や、ましてや自分もやってみたいなどという気持ちからの「好き」ではないことをここに明記しておく。
私が強烈に惹きつけられたのは、目に浮かんでしばらく忘れられない程鮮やかな死体の描写だ。流れ出る体液。砕ける骨。引きずり出される内臓のリアル。特にフードプロセッサで手を解体する場面の描き方は、他に見たことがなく新鮮だった。
また、解体の作業を進める少女が世にもおぞましいことをしているというのに、だんだん読み手である自分と同化するような感覚が、不気味で何故か――何故だか心地よかったのだ。全ての作業が終わって少女が感じた誇らしさを、私自身も共有してしまう程に。私自身が、何か特別なことをやり遂げたのではないかと錯覚してしまう程に。
絶対に実現してはならない悦楽、というものがここにはある。
現実で得てはならない達成感、というものがここにはある。
死体を解体する行為自体にではない。
それらは死体を解体した後にやってくる。
でも、それらを味わうのは物語を読んでいる間だけにした方が良いだろう。
気をつけろ。
「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
なんてことを、どこかの偉い人が言っているから。
私は死体解体になんて縁がないし(縁なんかあったら困る)、幸い本気で人を殺そうと思ったことは一度もない。けれど、この物語に惹かれたのにはやはり、自分の中にある何かが反応したからなのだろう。
例えば、私の中にいる「狼」、みたいなものが。
そいつは残酷な物語に反応して牙を向き、唸り声を立てる。いつでも攻撃できるよう姿勢を低くして、血の匂いを敏感に嗅ぎ分ける。
だから。さあ、小さな声で歌おう。
♪狼なんか怖くない 怖くないったら怖くない 狼なんか怖くない~
自分の中の「狼」をなだめるために。飼いならすために。手懐けるために。「iKILL」ために必要でも、「狼」を否定しなければならない。
物語の中の少女のように狼になってしまえば、本当に狼が怖くなくなると知っていても。