ベッドタイム・ストーリー
「失われるはずだった物語」
レビュアー:zonby
最初に言っておく。
この物語は「わたしとあなた」の物語である。
この物語は「異能を持つ少女と、平凡な少年、そして世界」の物語である。
そして
この物語は「もしも読み手である貴方にその異能があったらどうするか?」を問いかけてくる物語である。
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「――先輩、聞いてください。私には超能力があるのです。」
ぼくの横たわるベッドのそばで、少女・椎名アカリはその能力について語り始めた。いわく、彼女には物を動かす力があるらしい。いわく、彼女の能力は対象が自分から離れる程に力を増すらしい。いわく、彼女は宇宙の天体をも動かす力があるらしい。――いわく、彼女はぼくと恋仲なるために天体を動かし、占星術を変えてしまったらしい…。そしてそのせいでぼくは…。
おとぎ話のようで壮大な物語は、ただ一人「ぼく」だけのために語られ、彼女の持つ異能は「ぼく」の運命にも作用する?彼女の話は本当なのか。彼女の選んだ決断とは。
満月の夜にそうっと語られる、彼女の「ベッドタイム・ストーリー」。
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「ベッドタイム・ストーリー」は、「坂本真綾の満月朗読館」第三夜にむけ、作家、乙一氏が書き下ろした物語である。 この物語の骨組みはとても平凡で、いくつもの小説の中で、またいくつもの映画の中で繰り返されてきたテーマだ。
いわゆる「君と僕の関係が世界に直接作用する」セカイ系という枠組みになるのではないだろうか。だがそれ故に作者の味付けが試される、非常に読み応えのある物語であったと思う。
この物語の特徴は、主人公であるぼくが冷静な聞き手にまわり、語り手であるアカリの話を冷静に分析していく点だ。これは、元々が朗読用に書き下ろされたからということを差し引いても効果的な書き方だと感じた。ボケとツッコミで言うところのツッコミの役割である。
主な語り手となるアカリの話の内容は、簡単なところから始まって占星術や天体の動き、それによっておこるパラドックスなど、次々に理論展開してゆく。そのところどころで一度ぼくが冷静に聞き質すことで、読み手が理論展開においてけぼりになることがなく、一つの物語として読むことができた。これはSF的な発想や、物語が苦手な人にもおすすめできる点である。
さて、忘れてならないのは物語としての余韻だ。乙一氏の新作を読めるのは久しぶりだが、その「セツナイ系」の書き味は少しも衰えてはいない。過去の作品郡から言うと、「きみにしか聞えない Calling you」「傷 ―KIZ/KIDS―」「しあわせは子猫のかたち ―HAPPINESS IS A WARM KITTY」などの余韻に共通するものを感じる。その共通点とは誰とも分かち合えない「異能」を持つ人間が登場すること。そして、今回の題名にも取り上げた通り何らかが「失われて」いるという点だ。
「ベッドタイム・ストーリー」も例外ではない。
そう。「失われて」いる。
正確には「失われているはずだった」のである。
それは、アカリが天体を動かす前の物語だ。つまり「ぼくとアカリが出会わなかった物語」である。同時に、アカリが天体を動かさなかったとすれば「ぼくとアカリが出会う物語」(つまり「ベッドタイム・ストーリー」自体)が「失われているはずだった」ことになる。
物語が進みアカリに感情移入すればするほど、彼女の苦悩が真に迫って感じられることだろう。何かを「失う」ことはもう決定しているのである。自分だったらどうするか、どう行動するか、その壮大過ぎる異能がゆえにどうにかできるのではないかと思わず自分でも考えてしまう。でもそこは物語。物語は読み手の意思を無視して進む。
けれど、不思議なのは何かは確実に「失われて」いるはずなのに、驚くほど悲壮感がないことである。これも上記で述べた作品との共通点のひとつだ。
最後に残るのは、繊細で壊れやすく透明感のあるすがすがしさのような気がする。
勿論、すがすがしいといっても何もかもがさっぱりと晴れ、痛快感を感じるようなすがすがしさではない。「失う」ことさえ良しとし、悲しいことも辛いことも肯定して辿りつくすがすがしさである。
現在、この物語の無料配信は終了し2011春以降に「星海社朗読館」シリーズとして、発売が決定しているそうだ。そこで是非、この感覚を感じて欲しいと思う。
最後にもう一度言う。
この物語は「わたしとあなた」の物語である。
この物語は「異能を持つ少女と、平凡な少年、そして世界」の物語である。
そして
この物語は「もしも読み手である貴方にその異能があったらどうするか?」を問いかけてくる物語である。
―――けれど、この物語の答えはもう決まっている。
この物語は「わたしとあなた」の物語である。
この物語は「異能を持つ少女と、平凡な少年、そして世界」の物語である。
そして
この物語は「もしも読み手である貴方にその異能があったらどうするか?」を問いかけてくる物語である。
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「――先輩、聞いてください。私には超能力があるのです。」
ぼくの横たわるベッドのそばで、少女・椎名アカリはその能力について語り始めた。いわく、彼女には物を動かす力があるらしい。いわく、彼女の能力は対象が自分から離れる程に力を増すらしい。いわく、彼女は宇宙の天体をも動かす力があるらしい。――いわく、彼女はぼくと恋仲なるために天体を動かし、占星術を変えてしまったらしい…。そしてそのせいでぼくは…。
おとぎ話のようで壮大な物語は、ただ一人「ぼく」だけのために語られ、彼女の持つ異能は「ぼく」の運命にも作用する?彼女の話は本当なのか。彼女の選んだ決断とは。
満月の夜にそうっと語られる、彼女の「ベッドタイム・ストーリー」。
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「ベッドタイム・ストーリー」は、「坂本真綾の満月朗読館」第三夜にむけ、作家、乙一氏が書き下ろした物語である。 この物語の骨組みはとても平凡で、いくつもの小説の中で、またいくつもの映画の中で繰り返されてきたテーマだ。
いわゆる「君と僕の関係が世界に直接作用する」セカイ系という枠組みになるのではないだろうか。だがそれ故に作者の味付けが試される、非常に読み応えのある物語であったと思う。
この物語の特徴は、主人公であるぼくが冷静な聞き手にまわり、語り手であるアカリの話を冷静に分析していく点だ。これは、元々が朗読用に書き下ろされたからということを差し引いても効果的な書き方だと感じた。ボケとツッコミで言うところのツッコミの役割である。
主な語り手となるアカリの話の内容は、簡単なところから始まって占星術や天体の動き、それによっておこるパラドックスなど、次々に理論展開してゆく。そのところどころで一度ぼくが冷静に聞き質すことで、読み手が理論展開においてけぼりになることがなく、一つの物語として読むことができた。これはSF的な発想や、物語が苦手な人にもおすすめできる点である。
さて、忘れてならないのは物語としての余韻だ。乙一氏の新作を読めるのは久しぶりだが、その「セツナイ系」の書き味は少しも衰えてはいない。過去の作品郡から言うと、「きみにしか聞えない Calling you」「傷 ―KIZ/KIDS―」「しあわせは子猫のかたち ―HAPPINESS IS A WARM KITTY」などの余韻に共通するものを感じる。その共通点とは誰とも分かち合えない「異能」を持つ人間が登場すること。そして、今回の題名にも取り上げた通り何らかが「失われて」いるという点だ。
「ベッドタイム・ストーリー」も例外ではない。
そう。「失われて」いる。
正確には「失われているはずだった」のである。
それは、アカリが天体を動かす前の物語だ。つまり「ぼくとアカリが出会わなかった物語」である。同時に、アカリが天体を動かさなかったとすれば「ぼくとアカリが出会う物語」(つまり「ベッドタイム・ストーリー」自体)が「失われているはずだった」ことになる。
物語が進みアカリに感情移入すればするほど、彼女の苦悩が真に迫って感じられることだろう。何かを「失う」ことはもう決定しているのである。自分だったらどうするか、どう行動するか、その壮大過ぎる異能がゆえにどうにかできるのではないかと思わず自分でも考えてしまう。でもそこは物語。物語は読み手の意思を無視して進む。
けれど、不思議なのは何かは確実に「失われて」いるはずなのに、驚くほど悲壮感がないことである。これも上記で述べた作品との共通点のひとつだ。
最後に残るのは、繊細で壊れやすく透明感のあるすがすがしさのような気がする。
勿論、すがすがしいといっても何もかもがさっぱりと晴れ、痛快感を感じるようなすがすがしさではない。「失う」ことさえ良しとし、悲しいことも辛いことも肯定して辿りつくすがすがしさである。
現在、この物語の無料配信は終了し2011春以降に「星海社朗読館」シリーズとして、発売が決定しているそうだ。そこで是非、この感覚を感じて欲しいと思う。
最後にもう一度言う。
この物語は「わたしとあなた」の物語である。
この物語は「異能を持つ少女と、平凡な少年、そして世界」の物語である。
そして
この物語は「もしも読み手である貴方にその異能があったらどうするか?」を問いかけてくる物語である。
―――けれど、この物語の答えはもう決まっている。