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レビュアー「縷々」のレビュー

銅

星海社

フロンティア

レビュアー:縷々

最前線なるサイトがあり、星海社という会社が存在することを知るきっかけとなったのは、とある作家のツイッター上の発言だった。

リンクが貼られていれば、現代人のたしなみとして骨髄反射でクリックする。写真はおそらくこけら落としのパーティーでの一枚だったのだと思う。
特に好みのタイプだったわけではないのだが、気になったのでGoogle先生に社名を調べていただき、すっからかんのホームぺージに辿り着いた。
いわゆるライトノベルの熱心な読者ではない私には、太田克史なる人物がメフィストという文芸誌を編集しており、その後ファウストという文芸誌を創刊したこと、その雑誌の分厚いが故の読みにくさ、ジャンル構成の奇妙に溌剌とした印象、また本文に使われた紙がたいへん私の好みであったことなど、断片的な記憶しか残っていない。祖母の家に泊まる際、暇つぶしとして買い求めたファウストがどうなってしまったのかについては、いまの私には全く興味の無いことだ。

現在、出版界のみならず、我々を取り巻く環境、エンターテインメントについては、日々消費の加速が続いている。
刺激に慣れた我々は恋愛を忘れ、巨大な情報の海の中でシナプスとなることを選んだ。かの梅棹忠夫が外胚葉産業と呼んだ時代の最中に、今の我々は確実に存在している。
黎明、日足、それではこの後に訪れるのは黄昏だろうか。悪食となった我々は互いに身を食い合い、海辺に屍を並べるのが似合いだろうか。
答えは未だ出ない。

だが、我々人類は何者かが物語を語るようになった瞬間から、起こりうる悲劇と同等以上の英雄譚を好んできた。
この混沌とした澱のような世界に、彗星のような何者かが現れても良いのではないか。かつて我々の祖先が軽々しく、且つとんでもない願い事をした星が、ネメシスの重力を受け、さらにとんでもない夢を乗せて遠い旅から帰ってきてもいいのではないか。
私はそう思う。

星海社の事業理念には、あなたの「人生のカーブを切らせる」と書かれている。
騙されてはいけない、カーブを切った先にこそ、危険な崖が待っているかもしれない。そしてあなたも名もなきひとつの星になるのかもしれない。だが危険を恐れぬ者にこそ、フロンティアの開拓者となる資格がある。

挑戦したい者は新人賞だけでなく、ツイッターのダイレクトメールや星海社のお問い合わせあてに攻撃をするといい。無論、電話も歓迎する筈だ。某社のように賞だけが未開の地への渡航窓口であるとは、彼らは一言も言っていない。また、誂えられた入口から入って来る者だけを待つような気風でもないだろう。

既に書き尽くされた物語が星のように空を埋め尽くす世紀である。そんな星の海を呑み込み、多次元世界にまで希望を与えるような巨大な彗星の飛来を、我々はいま、地平の最前線に予感している。

参考文献:情報の文明学(37p『情報産業論』) 著:梅棹忠夫 中公文庫

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2011.08.17


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