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読者レビュー

銅

メイ・デイ

すべてのエンドをハッピーに

レビュアー:鳩羽 Warrior

魔法などないのだから、当然魔法使いもいない。言葉が魔力を持つこともない。

子供が親に殴られたり蹴られたりするものを読んで、その子供自身に感情移入することが難しくなった。
だから、その子供が何を感じ、どう思おうとも、それがたとえ信じていなければ耐えられないほどの現実を支えるための虚構であったとしても、一人の大人として、そのフィクションを肯定することはできなくなった。
それは魔女になるための試練ではないし、その言葉には魔力が宿っているわけではない。
私はこの主人公の子供に、そう諭したくてしょうがなくなる。

メイ・デイ。
メーデーという方が一般的だろうか。
それは冬期の終わりと、夏期の始まりを告げる節目の日だ。前夜は魔女たちが浮かれ騒ぐワルプルギスの夜。
それは何も変わらなさそうなところに、決定的な変化が訪れる日。
いや、変革を起こす日なのかもしれない。

この子に起こった変化がいいことなのか悪いことなのか、私にはわからない。
だがそれが、受け身の子供時代に終わりを告げることだったのは確かだ。
その選択によって、あなたの言葉も力を持つかもしれないし、立派な魔女にだってなれるかもしれない。
私はこの主人公の子がこれから語るだろう言葉の方にこそ、魔法の力を感じる。

2014.05.20

さくら
短い文でしたがぎゅっと気持ちが凝縮されているのを感じましたわ。「すべてのエンドをハッピーに」というタイトル、主人公にとってなのか、読み手にとってなのか。心にひっかかりましたわ。
さやわか
おっしゃるとおり、重いテーマ性に対して正面から向き合っているのがよく伝わる文章ですな。具体的な作品内容に踏み込んでいかないからこその静かな緊迫感もよく表れていると思います。言ってみればこの書き方は、未読の読者に「いったいどんな作品なのかわからないが、何か気になる」「不穏な感じがする」と思わせるものになっていて、そこがいいのですね。個人的にはほんの一言ていど、作品の内部が理解できる具体的なエピソードや台詞が挟まれるともうちょっと読者に対して開かれたレビューになるかもなと思いましたが、これはこれでまとまっていると思いました。ということで「銅」にさせていただきましょう!!

本文はここまでです。