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読者レビュー

銅

Hな人人

ひきこもり、26通り

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン Warrior

 ひきこもりをテーマにした26話が収められた短編集。
 1つのテーマでこんなに沢山の小説が書けるのかと思ってしまうほど内容は多岐に渡っている。
 12話『供養』では息子を殺された父親が、加害者である死刑囚に復讐するグロテスクなシーンを坦々と描く。

「男は体を拘束されていた。私はまず線香に火を灯し、赤く燃えている方を彼の耳の穴に差し込んだ。その場にいた誰一人、私を止めなかった。嬉しかった。本当の正義は法の中ではなく、人の心の中にあったのだ。」

 加害者である「男」が苦しむ様子は作中ほとんど描写がない。そのことが逆に「痛み」を強く想像させる。

 17話『ニューメディアじいさん』は「キャプテックス」というインターネットの隆盛によって廃れてしまった古い通信機器を唯一使っているおじいさんの話だ。対応するのはコンピューターのふりをした、ひきこもりのアルバイト男性。
 おじいさんが病院に行くことが決まり別れが訪れるが、男性はコンピューターのふりをしているので素っ気ない言葉しか返せない。
 別れを惜しむ言葉が伝えられないもどかしさが、温い気持ちにさせてくれる。

 全体を通して、ひきこもりを能動的に行うキャラクターが多く割とポジティブにとらえているのが印象的だ。著者は、ひきこもりを「逃げ」ではなく「活路」として描く。
 あっさりと簡潔に語られる文章からは、自分にとっての不用物を視界からカットする、内向的な「ひきこもり的視点」を感じる。
 それは同時に、人間的な複雑さを抱えきれない不器用さの表れなのかもしれない。

2014.03.27

さくら
活動の一つとして=ひきこもるという選択を選んだ登場人物たち。【ひきこもり】と一括りせずに、26通りのお部屋を覗き見てみたくなりましたわ。
さやわか
12話や17話について、あらすじをうまく紹介していて、これは「読んでみたい」と思わせるレビューだと思いました。全体的にどんなテーマを扱った本なのかというところまでちゃんと追求しているのもいいですね。少しだけ気になったのは、エピソードの紹介と、全体のテーマ性の考察が、独立した記述になっているように見えることです。「こんなエピソードが載っています」というだけでは、レビューの前半から中盤部分があくまでもあらすじ紹介のようになってしまって、少しもったいない。「こういうエピソードが載っています」→「そこから全体のテーマを読み取れる」というように、連動させた形で書くといいかなと思います。筆者としてはこの本をちゃんと読めているからテーマにまで言及できているわけなので、そういう書き方はきっとできると思いますぞ!ということで「銅」にさせていただきましたっ!

本文はここまでです。