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読者レビュー

銅

Fate/Zero

エゴイストたち

レビュアー:林 武 Novice

 この物語は、聖杯という万能の願望器がもたらす、欲望の物語である。 
 人は皆、欲望を持っている。
 世界中すべての人を救済したいと言う切嗣の願い。ただ一人根源の渦へ至りたいという時臣の願い。それらは一見相反するようでいて、どちらも紛うことなき欲望の発露だ。
 もちろん他のマスター、そしてサーバントとて例外ではない。
 しかし、願いを叶えられるのはただ一人……。
 そんな条件下で生まれる戦いが綺麗なものであるはずがない。便宜上あてがわれたルールは当然のように破られ、魔術など知ったことかと狙撃で暗殺。監督役まで参戦してしまう始末だ。
 しかし、だからこそ欲望の物語と言えるのだろう。人は何かを望むとき、むき出しの心をさらけ出す。すべてを失ってでも叶えたい願いがあるのであればなおさらだ。そして、その思いが強ければ強いほど、人の心は苛烈に輝きを放つ。
 一見寡黙で多くを語らない切嗣に引き込まれてしまうのも、きっと彼の放つ心の光に中てられてのものだろう。
 切嗣だけではない。この物語には多くの欲望がひしめき合っている。それらは形は違えども、たしかに眩いほどの輝きを放つ心だ。
 人間関係が複雑化し、恋人にも自らの心を明かすことのない昨今。我々の持ちえぬ、そんな感情を有するがゆえに、彼らの生き様は鮮烈に胸を焦がす。そんな欲望の物語に吸い寄せられてしまう我々は、さながら光を求めて彷徨う一匹の羽虫のようではないだろうか。

2014.01.29

さくら
おおお、特集の予告の〆のナレーションようなレビューです!征服王のような重厚な声で脳内再生されましたわよ!よいレビューの基準とはまた違うのかも知れませんが、映像や声が頭の中で流れてくる文章は読んでいてとても楽しいですわ。
さやわか
いや、よい!もちろん映像や声が流れてくるようなレビューはいいものですぞ~。さらに言えばこの文章はどっしりした文体を用いていて、それは『Fate/Zero』という作品の雰囲気にとてもマッチしている。姫も言っているように、読まずとも征服王などのキャラクターの気配が漂うかのようだと思います。批評としてもすごく的確で、『Fate/Zero』という作品の持つ「欲望の物語」という本質を突いている。ちょっとだけ気になったのは、「マスター」とか「サーヴァント」など、物語設定の知識を前提とする言葉が入っていたことでしょうか。登場人物の名前程度だといいのですが、レビューを読んでいる人が「マスターって何?」と思ってしまうと、なんとなく疎外感を与えてしまいかねないのですね。ここはちょっと、読んだことのない人にもわかるように言葉を補ってもいいかなと思います。ともあれ、よいレビューでした!レビューのタイトルもいい雰囲気。「銅」にいたしましょう。

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