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読者レビュー

銅

江波光則『スピットファイア』

赤いチューブトップワンピースを着た美少女

レビュアー:USB農民 Adept

 ネット上でまことしやかに囁かれている「ビッチ萌え」という言葉がある。本書を読み終えて、その言葉を思い出した。

 エンターテイメントに登場する美少女は、類型的になりがちであるので、意外性のある美少女はそれだけで他より魅力的に映る。その意味で、意外性の連続である倫子は、かなり魅力的な美少女といえる。実際、彼女は意外性に満ちている。刑事を一発でノックアウトする場面の流れるような殴打の動きなどは、女子高校生とは思えない程に手慣れている。と思えば、パンツを覗かれることを頑なに拒否する純情な女子っぽさを見せる場面もある。
 美少女として表紙に描かれたイメージからは、ビッチという属性は意外性に映る。と同時に、ビッチという属性のイメージからは、純情っぽい部分が意外性に映る。二重三重に意外性が仕掛けられている。
 そして彼女の一番の見せ場は、物語の後半、港で主人公に告白紛いの言葉をぶつける場面だ。
 カラーの挿し絵が挟まれるその場面は、実は物語の本筋からすれば、あまり重要ではないのだが、倫子と主人公の間には並々ならぬ緊張感が張りつめている。二人の選択如何によって、その後の人生が変わりかねないからだ。

「その行為には契約じみた重さが感じられた」
「ここで何かが変わる。俺の気持ち一つで、何かが変わってしまう」

 主人公は内心で、そう独白する。
 倫子も主人公も、物語の中で終始、性的にも暴力的にも無軌道な振る舞いが激しかったがゆえに、人生を左右する選択という、ここでのやりとりが強い意外性となって、より一層の重みをもっている。

 読了後、表紙を見返したとき、中央に立つ倫子の印象は、最初に本を手に取った時と変化していたことに気づいた。
 なるほど、と思った。
 ビッチというのは、その言葉の印象が強い分、意外性がよく引き立つ。「ビッチ萌え」という言葉も、そういうポイントに支えられているのだろう。だとすれば、倫子ほどその言葉の似合うキャラクターは希かもしれない。

2013.07.08

まいか
ビッチの言葉で括りきれなかった、彼女の勝利ですね。萌え。
さやわか
美少女キャラクターの類型について書くようなレビューはレビュアー騎士団ではあまり見かけないたぐいのものなので、面白く読めました。純情っぽい部分との二面性がキャラクターの魅力になっているという話からうまく作品全体のトーンと絡めて、「一番の見せ場」が印象的である理由を説明していますね。それだけに、倫子が作中で具体的にどのような「性的にも暴力的にも無軌道な振る舞い」をしているのかがわからないせいもあって、そもそも「ビッチ萌え」というのがどういう類型を指す言葉なのかが断片的にしか伝わらないのが、ちょっと惜しいところです。キャラクターの類型を語るからこそ、言葉の一般的な解釈と作中の具体例をもう少し踏まえてもいいのではないでしょうかね。ということで今回のところは「銅」となっております!

本文はここまでです。