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読者レビュー

銀

僕は写真の楽しさを全力で伝えたい! 青山裕企

写真はイメージです

レビュアー:鳩羽 Warrior

 シェフの今日のおすすめピッツァ、なんだか不満げな猫、ひんやりと青い紫陽花、コンビニの新商品、日本語が変な看板、作りかけのアクセサリー、羽織るものが欲しいというひとの撮った夕暮れ、スイカ模様のブックカバー、ホームの電車、ぴたりと静止した蝶、色調を加工したショッキングピンクの夜景、酒のラベル。
 これが、私が今日見た写真だ。写真といってもプリントアウトされたものは一枚もなく、いくつかのSNSでさらさらと眺めていっただけである。知人の撮った写真もあれば、まったく知らない人の写真もある。最近の私にとって一番身近な写真というと、スナップ写真でもプリクラでもなく、よく知らないひとが誰かに見せようと切り取ってくれた光景であり、情報であり、演出された美しい景色だったりするところの「写真」であるらしい。

 筆者は、自分には何もないと悩んでいた学生時代に写真の楽しさを見つけだした。その大好きな写真を仕事、生業にしていいものかどうかを悩み、決断し、写真家として歩き始めることになるまでの半生は、文章にするとあまりに簡単に見える。けれどこの本の目的は写真の楽しさを伝えることであって、写真の難しさや写真家の苦労を語ることではない。それらの現実的な内容は、静かに暗黙の背景に納められている。
 筆者の半生を語るのとは別に、もう一つのパートがある。それは「ぱち」という簡単に作ることができるお手製の写真集、それを作ることを目標に、写真の撮り方の心構えを教えてくれるような授業形式になっているパートだ。自分の撮った写真を並べて、対象の癖、距離の癖といった「眼の癖」なるものを見つけていくという課程は、やさしい内容ながらも意外な発見があったりして結構スリリングである。
 筆者の、いわば自分史のような写真と自分への取り組みの部分と、読者に対して実際に「ぱち」を作ってみようとする部分とが交互に織り込まれているのがこの本であり、焦点を意図的にずらされるかのようにこの二つのパートを読んでいると、写真の二面性のようなものがおぼろげに立ち上がってくるのが分かる。

 写真はありのままの現実を記録として伝えるものという性質、それと、なんらかの複雑で総合的なイメージを伝える性質、この二つの性質が分かち難く結びついている。写真に加工を施さないにしても、出来上がりのイメージを頭においてポーズをさせるならば、あるいはキャプションの付け方によって、特定のイメージを抱かせようとするなら、それは完璧にありのままの記録とはいえないだろう。
 だが、ありのままの記録では、おもしろくないのだ。
 ほんのちょっとの工夫で日常からたやすく抜け出せるというのは、筆者によると、ものの見方を変えてみることだ。「ものの見方を変える」というとなかなか難しいが、写真と撮るという行為になぞらえて、構成や距離や、明暗をはかりながら対象に向き合うこと、というとできそうな気がしてくるから不思議だ。何枚も撮ることができることは、何回でもチャレンジできることでもある。同時に、何百枚何千枚と撮ってやっと良い一枚が撮れるかどうかという、結果的なことを想起させられもする。
 著者の写真でいうならば、人をジャンプさせて写真を撮ることで、被写体の取り繕った自然から、不自然な状態のなかで見せる一瞬の自然な表情を見ることが可能となっている。また、自分の目で自分の全身を見ることは不可能だが、カメラの眼を通して見ることはできる。それが筆者にとって、写真のおもしろさと自分への愛着の発見だったことは、とてもよく分かるエピソードだ。
 シャッターを押すということは、一度自分の目を閉じて、別の眼で見るということなのかもしれない。それは多分、自分の目よりも、純粋なイメージを送受信するのに適している。
 
 おもしろい写真を撮ろう、美しい風景を記録しよう、それをアートとしてあるいは情報として、誰かに見せたい、喜んでもらいたい。日常とは簡単に脱せられるものだが、といったところで、価値を生み出すフィールドはやはり日常と地続きのところにしかない。写真の難しさや奥深さ、芸術作品としての写真に憧れ、引きつけられながらも、気軽に撮ることができる写真で何かを表現してみたいという欲求は身近なところに向けられる。息を吸って吐いて、を繰り返すかのように、写真の魅力を吸い込んでしまうと、今度は自分でも撮って誰かに見せたくなる。
 誰も私の日常に、私の視点などに興味はないだろうけど、と写真を撮る。
 でも、それでいいとも思う。
 写真はイメージです、というトートロジーにある微妙なずれの間を、撮りたい、知りたい、これいいね、という気持ちが無数の星となって行き来している。それはチャーミングな人間らしさに溢れている光景だ。
 今日見た写真のうち、何枚かにコメントをつけ何枚かをお気に入りにした。私の人生も、写真によって確かにカラフルになっているのだ。

2013.07.08

さくら
自分以外の人ってこの世界はどんな風に見えているんだろう、って思うことがあります。人の撮った写真をみると、その人の世界を覗けた気がして楽しくなるんですよね。鳩羽さんの写真も見てみたいです。ぜひ写真の投稿も何かの機会にトライしてみて下さい♪
さやわか
うーん……このレビューは難しい。言っていることは理路整然としているのですが、『僕は写真の楽しさを全力で伝えたい!』という本のレビューという形からは、何となく離れていってしまっているのではないでしょうか。もちろん、この本を発端に、そしてこの本に共感したからこそこの文章が書かれたことは分かるのですが、そこから筆者自身の写真に対する持論へと話が広げられてしまったきらいがあると思います。今回は「銀」にしましたが、ちょっとこれは本当は「鉄」にしてもよかったのかもしれません。よかったらご検討ください!!

本文はここまでです。