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読者レビュー

銀

『レッドドラゴン』

呼気を感じる3枚のイラスト

レビュアー:USB農民 Adept

 久しぶりに実家に帰ると、本棚に子供の頃読んだ絵本が何冊か残っていて、『タンタンの冒険』などを数年ぶりに手にとって読んでみたところ、とても懐かしい気分になるとともに、どこかでこれに似たような感じの絵を見たような感覚を覚えた。
 しばらくして、それが「レッドドラゴン」の挿し絵だったと気づいて、「ははん!」と短く呟いた。
『レッドドラゴン』3巻の終盤、忌ブキが自らの迷いをスアローに相談し、自分なりの答えを得て、エィハに言葉を告げに行くシーン。ここでの挿し絵は、冒険に立ち向かうタンタンのように、躍動感に溢れている。

 挿し絵は2ページに渡って続いているが、それは文章と並列して置かれている。
 まず、部屋を飛び出した忌ブキに、スアローが後ろから声をかけている様子が、文章とイラストで同時に描かれる。そして項をめくると、ページ右上部に部屋から部屋へと駆けていく忌ブキの姿、ページ中央にはシーンを描写する文章が流れ、そしてページ左下部に、忌ブキの突然の訪問にキョトンとした様子で座っているエィハの姿が描かれている。
 文章と並列されたこの3つのイラストの躍動感は、マンガの絵のように活き活きとした動きが見えてくるようで実に見事だった。
 たぶん、文章を読みながらイラストを目で追っていくことで、自然と右から左へと視線が誘導されたのだと思う。その視線の動きが、キャラクターの動きとあいまって、躍動感につながっている。ページ左方向へ呼びかけるスアロー、同様に左方向へ駆けていく忌ブキ、そして忌ブキの来訪に驚いて右方向を見ているエィハ。動きの始まりと終わりが、言葉にされなくても伝わってくる。
 女の子座りをするエィハのキョトンとした表情からは、忌ブキが勢いよくドアを開けて入ってきた様子がよくわかる。忌ブキの方は、プレイヤーであるしまどりるさんのこの場面での熱の入りようが絵からも伝わってきて、まるで駆けている間の呼気までを感じ取れそうなほどに活き活きとした動きが描かれている。

『レッドドラゴン』には、名場面を文字通り彩る秀逸なイラストが何枚もあるけど、個人的ベストは、今のところ、この場面の三枚の絵だ。

2013.07.08

まいか
あぁ!頭のなかにイラストがイメージされちゃいましたっっ!レッドドラゴン関係のレビューは、高井にとってネタバレが激しい・・・・・!涙
さやわか
「銀」としました。レビューの内容はしっかりしていて、読み応えがあります。そして挿絵に注目するという語り方がうまく機能していて、高井さんもおっしゃっているように、その絵を実際に見ているかのような臨場感を感じますね。このスタイルはUSB農民さんが前回レビューを書いたときくらいから見出したやり方なのだと思いますが、うまく使いこなしていると思いますね。冒頭のタンタンのくだりなどはいささか全体にとって冗長な感もあるので、一考の余地はあると思います。ひとまず文章を書いた後で短めにリライトする訓練などをするのもいいかなと思います。極端に短くする必要はないのですが、全体の論旨から外れる部分や同じことを言っているとおぼしき箇所を削る方向で推敲を重ねることは、文章のキレをよくするのに最適なことだと思いますよ。これはレビューだけでなく、多くのジャンルの原稿(たとえば小説においても)で求められるテクニックだと思います。

本文はここまでです。