おやすみ、ムートン
おはよう、私の名前は
レビュアー:ticheese
宇宙を漂流する船の中で、乗員たちは心を砕かれていた。元々は宇宙を飛び回る冒険小説が大好きな、思いやる心を持った人々はずなのに、一年もの間変わらぬ場所、変わらぬ隣人、変わらぬ絶望に閉じ込められる内、本来の性質を忘れて塞ぎ込むようになってしまった。
けれど船の中心人物であるsさんは、一人変わらぬ毎日に石を投げ入れた。羊のぬいぐるみの身体に人工知能を積んだ小さなロボット『ムートン』だ。初めて起動させる際にトラブルがあり、データが初期化してしまっているが、学習し言葉を話す確かな命であった。
sさんは自分の子供が欲しかったと言った。勝手に船の人工知能まで失敬し、乗員たちを危険に晒してまで得た結果が自分の子供。乗員の一人pさんはsさんを頭がおかしいと言う。他の乗員たちもsさんの身勝手を責め立てる。
私は不思議だった。sさんは本当に頭がおかしいのか、身勝手なのか。生まれたばかりのムートンに優しく接した彼は、他の乗員たちのことなどおかまいなしなのだろうか……。
その答えが出ないまま、sさんはムートンから引き離されて拘束された。宇宙船に閉じ込められた小さなグループで中で、さらに一人で閉じ込められることに、果たしてどれほどの意味があったのだろう。pさんたちはそれが分からぬほどに、内へ内へと心と身体を閉ざしてしまっていたのだ。
しかし一人だけどこにも閉じ込められてはいない乗員がいた。sさんから引き離されたムートンだ。生まれたばかりの小さなムートンには何もかもが目新しい。乗員たちとのあいさつも、自己紹介も、食事も洗濯も畑仕事も楽しい出来事の連続であった。舟の中で、ムートンだけが同じ一年を過ごさなかった異邦人だからだ。
ムートンの言葉は拙い。発音はすべて濁った濁音に変わり、簡単な単語しか話せない。単語と身体全体の身振り手振りで、自分の意志を伝えようとする。「おはよう」のあいさつも自己紹介の「ムートン」も、乗員たちにはムートンの言葉にしっかり耳を貸し、相手の思いを汲み取ろうと努力せねば理解することはできなかった。この相手を思う行為は、彼らが一年の歳月で失いつつあったものだった。
ムートンを中心に、船の中に確かな人の輪が再び形勢されようとしていた。
ムートンは確かにsさんの子供であったのかもしれない。人を惹き付け、暖かな気持ちにさせる。かつて宇宙船の乗員たちが、sさんを慕って集まったように。
sさんはムートンにあいさつを教えた。友達を作るよう部屋の外に送り出した。短い時間ではあったが、ムートンにはsさんの意志が込められている。決して一人で独占しようとしたのではない。ただ子供が欲しかっただけでもない。船の乗員みんなであいさつをし、自己紹介をし、友達になってほしかった。
私は思う。sさんの頭はおかしくない。身勝手でもない。彼は変わらず思いやる心で乗員たちに接していただけだ。みんなにとって今必要なものを、sさんは気づいていたのだ。
『おやすみ、ムートン』この作品を中心に、暖かな人の輪ができればいいなと私は思う。
けれど船の中心人物であるsさんは、一人変わらぬ毎日に石を投げ入れた。羊のぬいぐるみの身体に人工知能を積んだ小さなロボット『ムートン』だ。初めて起動させる際にトラブルがあり、データが初期化してしまっているが、学習し言葉を話す確かな命であった。
sさんは自分の子供が欲しかったと言った。勝手に船の人工知能まで失敬し、乗員たちを危険に晒してまで得た結果が自分の子供。乗員の一人pさんはsさんを頭がおかしいと言う。他の乗員たちもsさんの身勝手を責め立てる。
私は不思議だった。sさんは本当に頭がおかしいのか、身勝手なのか。生まれたばかりのムートンに優しく接した彼は、他の乗員たちのことなどおかまいなしなのだろうか……。
その答えが出ないまま、sさんはムートンから引き離されて拘束された。宇宙船に閉じ込められた小さなグループで中で、さらに一人で閉じ込められることに、果たしてどれほどの意味があったのだろう。pさんたちはそれが分からぬほどに、内へ内へと心と身体を閉ざしてしまっていたのだ。
しかし一人だけどこにも閉じ込められてはいない乗員がいた。sさんから引き離されたムートンだ。生まれたばかりの小さなムートンには何もかもが目新しい。乗員たちとのあいさつも、自己紹介も、食事も洗濯も畑仕事も楽しい出来事の連続であった。舟の中で、ムートンだけが同じ一年を過ごさなかった異邦人だからだ。
ムートンの言葉は拙い。発音はすべて濁った濁音に変わり、簡単な単語しか話せない。単語と身体全体の身振り手振りで、自分の意志を伝えようとする。「おはよう」のあいさつも自己紹介の「ムートン」も、乗員たちにはムートンの言葉にしっかり耳を貸し、相手の思いを汲み取ろうと努力せねば理解することはできなかった。この相手を思う行為は、彼らが一年の歳月で失いつつあったものだった。
ムートンを中心に、船の中に確かな人の輪が再び形勢されようとしていた。
ムートンは確かにsさんの子供であったのかもしれない。人を惹き付け、暖かな気持ちにさせる。かつて宇宙船の乗員たちが、sさんを慕って集まったように。
sさんはムートンにあいさつを教えた。友達を作るよう部屋の外に送り出した。短い時間ではあったが、ムートンにはsさんの意志が込められている。決して一人で独占しようとしたのではない。ただ子供が欲しかっただけでもない。船の乗員みんなであいさつをし、自己紹介をし、友達になってほしかった。
私は思う。sさんの頭はおかしくない。身勝手でもない。彼は変わらず思いやる心で乗員たちに接していただけだ。みんなにとって今必要なものを、sさんは気づいていたのだ。
『おやすみ、ムートン』この作品を中心に、暖かな人の輪ができればいいなと私は思う。