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読者レビュー

銀

レッドドラゴン

その熱こそが、……

レビュアー:USB農民 Adept

『Fate』の奈須きのこ。
『魔法少女まどかマギカ』の虚淵玄。
『バッカーノ!』の成田良悟。
『ミミズクと夜の王』の紅玉いづき。
 この中に貴方が好きな作家が一人でもいるなら、私は自信をもってこの本を貴方に薦めることができる。
 なぜなら、「レッドドラゴン」という物語には、この4人の作家の創作表現を支える、資質や世界観が色濃く映し出されていて、互いの世界観の強度を試すかのように、激しくぶつかり合っているからだ。

 4人の作家の世界観を、私の言葉で簡潔に説明してみよう。

【奈須きのこ】特殊な力をもった主人公が登場するが、その力の使い方と、自身の在り方は、徹底して「他者」の存在を前提に描かれる。主人公が自分のために力を使うことはほぼない。

【虚淵玄】主人公は圧倒的な力を持っていることが多いが、その力の使い方と、自身の在り方は、「自分の持つ力は、どのように扱われるのが最も相応しいか?」という問いと、その答えに支えられている。

【成田良悟】視点の置き方に特徴がある。長年生きた不死者の視点や、複雑な事件を鳥瞰する観測者のような存在を描く。ある種の超越的な視点を設定することで、様々な価値観を錯綜させ転倒させる。

【紅玉いづき】命を賭けてでも手に入れたいものについての寓話が多い。その対象は愛であったり、記憶であったり、信頼であったりする。それは、「自分の命の使い道」について深く模索するような物語の形をとる。

 どうだろうか。一読してわかることは、奈須きのこと虚淵玄の世界観の対立、などがあると思う。実際に、「レッドドラゴン」では2人は互いのキャラクターを通して、その世界観を激しくぶつけあっている。
 3巻で描かれた、野営地でのスアロー(奈須きのこ)と婁(虚淵玄)の会話が特に顕著で、ここではお互いに、「力の使い方と、その目的」について言葉を戦わせている。
 世界観の対立は、奈須きのこと虚淵玄だけの問題ではない。エィハ(紅玉いづき)や禍グラバ(成田良悟)についても同じだ。戦争を回避したいと願う者がいる傍らで、戦争によって富を築いた者がいる。はかない命を嘆き守りたいと強く思う者の傍に、他者のために自分の命を捨てることに躊躇しないような者がいる。
 固有の世界観を持ち、それを言葉で十全に表現できる者同士がいて、彼らが一つの物語に入り込んだとしたら、異なる世界観同士が摩擦を生むのは明らかだ。
 その摩擦によって生まれる熱こそが、この作品の魅力だ。

 そして実際に、4巻でこの物語は、それぞれの作家たちの世界観を背負ったキャラクターたちの様々な行動と決断によって、大きな熱を呼ぶこととなる。

 赤の竜の襲来だ。

 物語の中で、赤の竜は大きな破壊をもたらすのだが、それはキャラクターの行動次第では止めることもできたはずだった。
 だが、キャラクターたちがその身に背負う世界観に忠実に動いた結果、赤の竜は誰に阻まれることなく破壊の限りを尽くすこととなった。
 物語を読みながら、私には、まるで4人の作家たちの世界観が起こした摩擦熱が、赤の竜を呼び寄せたように思えて仕方なかった。
 4巻の物語で、赤の竜は討伐されなかった。
 物語の中で、熱はまだうねっている。

 そして、ここまで敢えて触れなかったが、この物語にはもう一人のプレイヤーがいる。商業出版作品を持たない漫画家である、しまどりるが残っている。私は彼(彼女?)についてはよく知らない。先ほど挙げた4人の作家に比べ、その世界観がどのようなものであるのか、判断する材料は非常に少ない。
 しかし、「レッドドラゴン」における役割は、これは私なりに考えているものがある。
 しまどりる演じるキャラクター、「忌ブキ」が背負う物語が「革命」であるように、しまどりるが「レッドドラゴン」で担う役割は「革命」だ。
 すでに確固たる世界観を持った4人の作家たちに対して、新たな価値観をもって切り込み、対峙する革命者。
 忌ブキは、作中である人物に「この島の人々は、『生きている』って言えるのかな?」と問いかけている。この問いは、忌ブキに対峙するほかの4人のキャラクターに対しても、同じように向けられているように、私は感じる。
「自身の世界観を守るだけのキャラクターは、『生きている』って言えるのかな?」
 忌ブキは、そんなメッセージをほかの4人のキャラクターへ問いかけている。

 4つの確固たる世界観と、1つの革命。
 5つの要素がぶつかり合い絡み合い、摩擦が起こって熱が生まれる。
 その熱は、形をもって読者の前に現れる。

 その熱こそが、赤の竜であり、「レッドドラゴン」そのものである。

2013.06.11

まいか
このキャラクター解説はわかりやすい!各作家さんのおもっていることがキャラクターに繋がることで、レッドドラゴンの中で息を吐いていますね。私、レッドドラゴンの続きがますます気になります!
さやわか
このレビューは、大変面白かったです! 『レッドドラゴン』について、演じる作家の作風が、登場人物の行動にどう影響しているかということはこの作品の読者には漠然と理解されていたと思うのですが、こうしてきちんとまとめられたものは見たことがありません。しかも、このレビューはちゃんと、この作品を読んだことがない人にもわかるように的確に説明を加えています。その上でこのレビューは、ほとんどの読者にとって謎の人物であるしまどりるを特異点として認めて結論を導こうとしているのがうまい。そこでしまどりるに「世界観を守ることへの反逆」という意図を読み取るのは正直ちょっと勇み足かなとは思いました(なぜならそれこそ皆が知らないだけで、しまどりるもまた自身の世界観を守って行動しているのかもしれないから)。しかし十分に面白いレビューではあると思います。『レッドドラゴン』読者の皆さんにも楽しんで読んでもらえるのではないでしょうか? ということでこのレビュー、「銀」といたします!

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