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読者レビュー

銀

大岩賢次『エレGY』

グッドループ

レビュアー:ticheese Warrior

 ネットで無料ゲームを配布し、関連グッズで生計を立てる天才クリエイタージスカルドは、現実では家賃の支払いにも困る貧乏人泉和良でしかなかった。ジスカルドのファンである女子高生エレGYを前にして、そのギャップに苦しむ泉和良の姿を一気に描いた名場面が、大岩賢次の『エレGY』コミカライズにある。
 ジスカルドが踏切の開かれるのを待っている10ページ間。エレGYとの恋に期待し、夢を膨らませるジスカルドは、泉和良自身の現実を思い出し、絶望に身を焦がす。ジスカルドが泉和良に変わる瞬間、電車が風圧を伴って彼の前を駆け抜ける。結局は吹けば飛ぶような夢なのだ。画面上で恋に輝く青年の顔は、途端に冴えない眼鏡男の顔に変わる。
 実はこのシーン、私は原作にあったか覚えていなかった。泉和良は作中ずっとジスカルドとのギャップに悩み続けているし、そもそも電車が駆け抜けるというのは視覚的表現だ。あまり印象が強くなかったのかもしれない。しかし探してみると原作には確かにあったのだ。
 大岩賢次の描く『エレGY』は、こうして原作の一場面を、漫画でなければできない方法で文字通り絵で描き出す。私はその度に原作を手にとり、彼の内情を余す所なく読み尽くす。大岩賢次の漫画がスパイスとなり、以前より鮮やかに感じ取れるようになるのだ。
 これから漫画がクライマックスに向かい、私の好きだった名場面がどう描かれるのか、楽しみで仕方がない。

2013.06.11

まいか
人間の感覚の中で目がしめる割合はとても大きいと聞きます。そして、文章から読み取る想像力は無限大です。この2つが掛け合わさると脳裏に駆け巡る文字の羅列も増して興奮的になりますね!ほんとだ!うおおおおってなりました!!
さやわか
このレビューは非常によいですなー! 原作にもあった些細なシーンを、コミカライズが漫画ならではのやり方で印象的に表現する。しかも作品の主題を見事に描ききっているという。このレビューはそこをすくい取って、コミカライズがやっていることをきちんと言葉にしている。再び原作を手にとってしまうというのもいい話だと思います。これはコミカライズのレビューなのでそこまで強くなくてもいいのですが、コミカライズを見てから原作に立ち返ったときにどういう読み方ができるかにも触れてあるともっとよかったかもしれません。ともあれこのレビューは「銀」といたします!

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