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読者レビュー

銀

サエズリ図書館のワルツさん1 サエズリ図書館のカミオさん

ヒト本を読む

レビュアー:Panzerkeil Adept

「アレキサンドリアを忘れるな」この物語のキーワードです。それはアレキサンドリア図書館を意味する。この図書館は紀元前300年頃にエジプトのアレキサンドリアにあって世界の叡智を収集していたと言われています。
例えばホメーロスの作品群を最初にテキスト化したのは、アレキサンドリアの司書達だったと言われています。しかし、この図書館はやがて、その価値を理解しない侵略者によって完全に焼かれ、破壊されてしまいました。
ホメーロスの今に残るオデュッセイアは、その精華の残ったごく一部分に過ぎないという話もあります。例えば源氏物語はそのうちの数帖しか残っていないとしたらどうでしょうか?僅かに残る断片がこれほど輝かしいものであるならば、消滅してしまったものにどれほどの価値があったでしょう?
ただ、このキーワードには、ただ本を守る事が重要だ、というだけでなく、もう一つの意味があると思います。それは、本は人に読まれてこそ、その存在に意義があるという事です。僅かであっても、破壊を免れた本は人の目に触れることで永遠の存在となりました。どんなに素晴らしい本であっても、誰にも手にとって貰えなければ、その本は存在しないのと同じなのです。
ちょっとツイてない事が多く、気分が沈んでいたOLカミオさんが、たまたま出会った私設の「サエズリ図書館」と司書のワルツさん。
最初はごくごく平凡な本好きの人々の物語だろうと考えていたのですが、徐々に世界観が見えてくると、思いのほか重いテーマも含んでいるお話でした。
紙の本が何度も消滅しかけ、更には電子書籍のデーターさえ失われつつある世界に残された、いまある「アレキサンドリア図書館」を守る人々。
しかし、図書館の書庫がどんなに貴重な稀覯本ばかりであっても、ワルツさんは本の貸し出しを止めることはありません。本は人に読まれるために存在している事を彼女は信じているからです。
人は何故本を読むのか、それは本が好きだから、確かにその通り。
自分もかつては本が大好きでした。中学生の時に昼食のパンを買うために貰ったお小遣いを使わず、空腹を何日も抱えても好きな本を買った事を思い出しました。
今ももちろん本が好き。もはや本を読むのは人生の一部となっています。この作品はKindleで読みましたが、紙の本もまた捨てる事はできません。
そんな想いを触発される作品です。

2013.06.11

さくら
紙の本を読む大切さに触れている物語をkindleで読まれたっていうのはなんだかおもしろい出逢いですね。紙である必要性がなくなると本はただの嗜好品になってしまいますが、それでも情緒ある本という文化は絶やさず大切にしていきたいです。
さやわか
まったく、中村さんの言うとおりですな。紙の本についてのシリアスな展開についても述べられつつ、中学の頃の素敵なエピソードも挟みつつ、最後に「この作品はKindleで読みました」という、どんでん返しのようなオチがついている。ここが何だか面白かったです。前半のホメーロスや源氏物語についての言及もしっかりしたもので、本についての歴史の重みを感じさせるからこそ、このレビューのラストは面白く感じられました。だけどそれが悪いわけじゃない。むしろきちんと書けているから、これは「銀」といたします。しかしながらたぶん、書き手はこれをそこまで意識して書いたわけではないのかもしれません。それだとするとちょっともったいないようにも思えますな。もし次回、同じ本について何か書くとしたら、自分がこれをkindleで読んだことと、作品が描いた紙の本というテーマ、そして自分の過去に残る読書体験などを比較しながら語ってみるといいかもしれません。

本文はここまでです。