エレGY
心の傷にも絆創膏を。
レビュアー:飛龍とまと
本当の俺を見てくれ!
俺にはこんな力があるんだ。こんな才能があるんだ。誰か見てくれ、認めてくれ、必要としてくれ、褒めてくれ。口に出さなくとも、望む。理想の自己実現を頭で想像し、いつか手が届くに違いないと笑顔になっていた若き頃。夢を胸一杯に抱えていた自分。だが世の中には自分なんかよりも才能に溢れた人間が山ほど転がっていて、ああ俺は井の中の蛙だったのかと絶望し。もしくは必死に夢だけを追い続けて周りが見えなくなっていつの間にか一人になって……行き場のなくなった感情の高ぶりは自分の中で勝手に暴れ回り、そうして知らぬ間に自らの心に深い傷を付けていく。
――俺が居ても居なくても変わらない、こんな世の中なんてくそくらえだ――
自己中心的な自分だけの気持ちは、思い通りにならないことのストレスに助長されいつかとんでもない爆発を引き起こす。
主人公のフリーウェアゲーム作家・泉和良も、例に漏れずふざけた世の中に対し自らの感情を爆発させた。
自らの運営するサイトの日記に女の子のパンツ画像を募集する熱烈な文章を書き綴ったのだ。それは一見くだらない、人々に嗤われて一蹴されるような内容で――しかしそれが全てを変えることとなろうとは。
彼の元にたった一人、自分のパンツ姿の写真を添付しメールを送信した少女がいたのだ。彼女こそが他でもないエレGYである。
この少女、普通ではない。送信したメールの内容がまず酷く奇妙で、その文末には「へんじがこなかったらじさつします」とまで書かれている。一体彼女は何者なのか? 泉和良は異常さを感じさせつつもどこか抑えがたい魅力を持ったエレGYに惹かれてゆく。そうして二人は出逢いを果たし、数々の出来事を経て交流を深めていき、前を向いて歩いて行く。これは一種の青春小説でもあり、恋愛小説でもあり、泉和良という人間の内面をひたすらにさらけ出した小説でもあるのだ。
主人公の葛藤や痛みが切実に表現された文章には共感を得ると同時、痛さや辛さもしっかり伝わってくる。同時に、ほんのちょっぴり希望や勇気も見いだせる内容で、だからこそ、この二人を応援したくなるのだ。
この二人は実のところよく似ているのかもしれない。
二人共「世界なんてくそくらえ」と思っている。だからこそ彼はその想いを胸にゲームを創って、彼女はそのゲームの背景に隠れた想いを無意識に読み取ってファンになった。出逢いは同じモノを持つ同士必然だったようにさえ思える。
ただ二人の異なってしまったところは、一人は感情を爆発させた結果日記に醜態をさらすことで一段落をつけたが、もう一人は自らを傷つける行為に走ってしまったことだ。彼女は心の傷に収まらず、身体すらも傷つけるに至ってしまった。
物語の中で、エレGYの手首の傷に泉和良が絆創膏を貼るシーンがある。するとエレGYはぼろぼろと泣き出してしまうのだ。私は数多い場面の中で一番この場面が印象に残っている。どうして彼女は泣いたのか。それは、もちろん自分の憧れの相手に優しくしてもらえたことが嬉しかったのもあるだろう。でも本当はそれだけでなくて、彼が彼女の傷の深い深いところまで、痛いくらいに分かっているのが、彼の浮かべた笑顔の裏から、触れた手のぬくもりから伝わったから、涙を流したのではないだろうか。
無意識のうちに、彼の分まで。
皆に褒め称えられることを求めるよりも、たった一人に絆創膏を貼って貰える方が、ずっと素敵なことかもしれない。
俺にはこんな力があるんだ。こんな才能があるんだ。誰か見てくれ、認めてくれ、必要としてくれ、褒めてくれ。口に出さなくとも、望む。理想の自己実現を頭で想像し、いつか手が届くに違いないと笑顔になっていた若き頃。夢を胸一杯に抱えていた自分。だが世の中には自分なんかよりも才能に溢れた人間が山ほど転がっていて、ああ俺は井の中の蛙だったのかと絶望し。もしくは必死に夢だけを追い続けて周りが見えなくなっていつの間にか一人になって……行き場のなくなった感情の高ぶりは自分の中で勝手に暴れ回り、そうして知らぬ間に自らの心に深い傷を付けていく。
――俺が居ても居なくても変わらない、こんな世の中なんてくそくらえだ――
自己中心的な自分だけの気持ちは、思い通りにならないことのストレスに助長されいつかとんでもない爆発を引き起こす。
主人公のフリーウェアゲーム作家・泉和良も、例に漏れずふざけた世の中に対し自らの感情を爆発させた。
自らの運営するサイトの日記に女の子のパンツ画像を募集する熱烈な文章を書き綴ったのだ。それは一見くだらない、人々に嗤われて一蹴されるような内容で――しかしそれが全てを変えることとなろうとは。
彼の元にたった一人、自分のパンツ姿の写真を添付しメールを送信した少女がいたのだ。彼女こそが他でもないエレGYである。
この少女、普通ではない。送信したメールの内容がまず酷く奇妙で、その文末には「へんじがこなかったらじさつします」とまで書かれている。一体彼女は何者なのか? 泉和良は異常さを感じさせつつもどこか抑えがたい魅力を持ったエレGYに惹かれてゆく。そうして二人は出逢いを果たし、数々の出来事を経て交流を深めていき、前を向いて歩いて行く。これは一種の青春小説でもあり、恋愛小説でもあり、泉和良という人間の内面をひたすらにさらけ出した小説でもあるのだ。
主人公の葛藤や痛みが切実に表現された文章には共感を得ると同時、痛さや辛さもしっかり伝わってくる。同時に、ほんのちょっぴり希望や勇気も見いだせる内容で、だからこそ、この二人を応援したくなるのだ。
この二人は実のところよく似ているのかもしれない。
二人共「世界なんてくそくらえ」と思っている。だからこそ彼はその想いを胸にゲームを創って、彼女はそのゲームの背景に隠れた想いを無意識に読み取ってファンになった。出逢いは同じモノを持つ同士必然だったようにさえ思える。
ただ二人の異なってしまったところは、一人は感情を爆発させた結果日記に醜態をさらすことで一段落をつけたが、もう一人は自らを傷つける行為に走ってしまったことだ。彼女は心の傷に収まらず、身体すらも傷つけるに至ってしまった。
物語の中で、エレGYの手首の傷に泉和良が絆創膏を貼るシーンがある。するとエレGYはぼろぼろと泣き出してしまうのだ。私は数多い場面の中で一番この場面が印象に残っている。どうして彼女は泣いたのか。それは、もちろん自分の憧れの相手に優しくしてもらえたことが嬉しかったのもあるだろう。でも本当はそれだけでなくて、彼が彼女の傷の深い深いところまで、痛いくらいに分かっているのが、彼の浮かべた笑顔の裏から、触れた手のぬくもりから伝わったから、涙を流したのではないだろうか。
無意識のうちに、彼の分まで。
皆に褒め称えられることを求めるよりも、たった一人に絆創膏を貼って貰える方が、ずっと素敵なことかもしれない。