フェノメノ
その先にあるのは、【見るなの禁止】が微笑む世界。
レビュアー:飛龍とまと
見てはいけない、振り向いてはいけない、開けてはいけない。
そう禁じられると逆に、見たい、振り向きたい、開けたいと強く望む心理が働いてしまう。
このような心理的欲求のことを、【カリギュラ効果】と呼ぶ。
パンドラの箱、オルフェウスとエウリュディケーの物語、黄泉の国のイザナミとイザナギ、鶴の恩返し、浦島太郎……禁止事項をあえて破り、自らを悲劇に陥れた例は計り知れない。それが人間に収まらず神話上の神々でさえ例に挙がるのだから恐ろしいことこの上ない。
禁止事項を破ることにより起きた悲劇、恐怖の出来事。
それらは【見るなのタブー】、または【見るなの禁止】と呼ばれている。
田舎から上京してきた、オカルトに強い興味を持つ大学生・山田凪人。
この物語で彼は【カリギュラ効果】を呼び起こす欠片が散りばめられた漆黒の世界に深々と足を踏み入れることとなってしまう。
奇妙な雰囲気と人間離れした美しさを持った少女・美鶴木夜石との邂逅を果たした、その日から。
生き物はそれぞれ進化を遂げた。
数を増やすことに重点を置いた生物、耐久力を求めた生物、ひたすら長く生きることを望んだ生物――
そして我々人間は、おそらく知ることを望んだ。今までは見ることの出来なかった世界を見たい、そんな強い願望があったのかもしれない。そうしていつの間にか我々は、自らの知的欲求を満たさなければ気が済まない生き物へと進化を遂げていた。
果たして、それは正しかったのだろうか。見えなかった世界を見ることが、そんなに素敵なことだったのだろうか。知らぬままにへらへらと笑っていた方が幸せだったのではないか。
そんなことを今更言及したところで、後悔しか残らない。何故知ってしまったのだろうと頭を抱えて泣き叫んでも、手遅れだ。知ってしまった世界を心の奥底に抱え込んで嘆き続けるしかない。
彼のように。
「本当に聞きたいの?」
美鶴木夜石の言葉一つ一つには、奇妙で恐ろしくも甘美な、一度手に取ったら中々手放せない中毒性を携えた魅力がある。だが、その聞く者を強く惹き付ける「何か」の正体は、紛れもなく【カリギュラ効果】の起因となる恐るべき鍵に違いないのだ。
警告に見せかけて、彼女は我々を誘い込もうとしている。彼女にしか見ることの出来ない、暗く歪み、腐って赤黒く染まった、この世でない者が織りなす風景を。
「ようこそ、こちら側の世界へ」
見てはいけない世界を、その黒い瞳に焼き付けて。
彼女は静かに嗤うのだ。
愚かにも、彼岸と此世の境界線へ足を踏み出した彼と、我々を。
そう禁じられると逆に、見たい、振り向きたい、開けたいと強く望む心理が働いてしまう。
このような心理的欲求のことを、【カリギュラ効果】と呼ぶ。
パンドラの箱、オルフェウスとエウリュディケーの物語、黄泉の国のイザナミとイザナギ、鶴の恩返し、浦島太郎……禁止事項をあえて破り、自らを悲劇に陥れた例は計り知れない。それが人間に収まらず神話上の神々でさえ例に挙がるのだから恐ろしいことこの上ない。
禁止事項を破ることにより起きた悲劇、恐怖の出来事。
それらは【見るなのタブー】、または【見るなの禁止】と呼ばれている。
田舎から上京してきた、オカルトに強い興味を持つ大学生・山田凪人。
この物語で彼は【カリギュラ効果】を呼び起こす欠片が散りばめられた漆黒の世界に深々と足を踏み入れることとなってしまう。
奇妙な雰囲気と人間離れした美しさを持った少女・美鶴木夜石との邂逅を果たした、その日から。
生き物はそれぞれ進化を遂げた。
数を増やすことに重点を置いた生物、耐久力を求めた生物、ひたすら長く生きることを望んだ生物――
そして我々人間は、おそらく知ることを望んだ。今までは見ることの出来なかった世界を見たい、そんな強い願望があったのかもしれない。そうしていつの間にか我々は、自らの知的欲求を満たさなければ気が済まない生き物へと進化を遂げていた。
果たして、それは正しかったのだろうか。見えなかった世界を見ることが、そんなに素敵なことだったのだろうか。知らぬままにへらへらと笑っていた方が幸せだったのではないか。
そんなことを今更言及したところで、後悔しか残らない。何故知ってしまったのだろうと頭を抱えて泣き叫んでも、手遅れだ。知ってしまった世界を心の奥底に抱え込んで嘆き続けるしかない。
彼のように。
「本当に聞きたいの?」
美鶴木夜石の言葉一つ一つには、奇妙で恐ろしくも甘美な、一度手に取ったら中々手放せない中毒性を携えた魅力がある。だが、その聞く者を強く惹き付ける「何か」の正体は、紛れもなく【カリギュラ効果】の起因となる恐るべき鍵に違いないのだ。
警告に見せかけて、彼女は我々を誘い込もうとしている。彼女にしか見ることの出来ない、暗く歪み、腐って赤黒く染まった、この世でない者が織りなす風景を。
「ようこそ、こちら側の世界へ」
見てはいけない世界を、その黒い瞳に焼き付けて。
彼女は静かに嗤うのだ。
愚かにも、彼岸と此世の境界線へ足を踏み出した彼と、我々を。