ここから本文です。

読者レビュー

銀

大日本サムライガール

神楽日毬のとりせつ

レビュアー:ticheese Warrior

 大日本サムライガールの『神楽日毬』は、いささか以上に風変わりなヒロインでした。
 道行く人々が目を合わせないようにする美少女、公安に目を付けられる美少女、真性の右翼であり日本の独裁者になろうとする美少女……。はっきり言って、私は最初に読んでみてどん引きしていたのです。
 いくら美少女だからといって、これではいくらなんでも怖過ぎる。もし現実にいたら、私だって近づきたいとは思えません。
 しかし読み進める内に、そんな彼女を好ましく思えるようになるのだから面白いのです。面白いと思うのは、彼女を好ましく思えるようになったのが、彼女自身の魅力がきっかけではないからです。
 日毬が芸能界にデビューを果たし、仕事を共にする芸能関係者の大人たちこそ、この近付き難いヒロインを親しみやすく解してくれた功労者。彼らはまず神楽日毬の容姿に着目し、他の幾多のモデルやアイドルにはない個性に確信します。――『この娘は使える!』
 彼らは日毬の思想や奇行など気にしたりしません。右翼であろうが独裁者を目指そうがおかまいなし。自分たちの必要としている面しか見ない。それは主人公であり、日毬を芸能界に引っ張り込んだ張本人である織葉颯斗ですら、例外ではありません。颯斗が見ているのは、自分にはない明確な目標を持つ日毬の強い意志。もし日毬の目標が世界征服でも人類殲滅でも、あるいは応援したかもしれません。
 私は彼らに神楽日毬との丁度良い距離感を教えてくれました。
 好きな所だけ楽しめばいい、です。
 そうと分かると、日毬の強烈な個性の影に隠れた普遍的な魅力が見えてきます。拡声器を持ち凛々しく演説する姿、肌を晒すのを恥じらう水着姿、苦手な杏奈に怖れ戦く姿、挿絵でだけでもどれ一つとして同じ顔をしていないんです。怖過ぎる美少女が、魅力的な美少女に変わるには十分でした。
 偏見を廃し、相手の良い所を見つける。かといって触れるべきではない所からはきちんと距離をとる。読む内に正しい大人の対応を教えてくれて、その教訓がヒロインを輝かせてくれる。さらに言うなら、主人公颯斗と日毬が1巻で敵対する相手が、大人げない圧力をかけてくる権力者であることも、読者にこの作品の有り様を強く印象づけている要素であるかもしれません。
 読み終わる頃には、神楽日毬は私のお気に入りのヒロインになっていました。

2013.05.29

まいか
人のステキなところを1つ見つけることができれば、きっとすぐその人が好きになれます。これは偏見とか関係無しに人が人間的に人を好きになる原理だと思います。一生懸命なひまりちゃんをみんなで応援していきましょー!
さやわか
このレビューはすごく好きです。ヒロインに対する真っ直ぐな感情が伝わってきて、しかもそれが作品全体を語るのに欠かせない要素になっている。ticheeseさんは以前からレビュアー騎士団に投稿してくださっている方ですが、これはかつてよりもずっと読み手の心をつかむ、しかも高度なレビューですね。特にいいのは、あくまでも自分の感じたことに沿って書いていることです。「自分はこう思う」という書き方はレビューとして単純に感じる人もいると思いますが、そこをないがしろにして一般論を書くことは本来できません。なのに「一般論を書いた方が共感を得やすい」と勘違いしてしまうと、強引に自説へ誘導するようなまずいレビューになってしまいます。このレビューにはそういうところがない。そこがいいと思いました。その意味では「銀」とさせていただきます!

本文はここまでです。