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読者レビュー

鉄

渡辺浩弐『iKILL』

生死の狭間をつま先立ちで

レビュアー:ユキムラ Adept

 我が家でお茶摘み器と呼ぶグッズがある。
一般的には茶摘鋏と呼ぶのだろうか?
剪定鋏の刃先に、サンタクロースが持ってるようなでっかい袋の口部分をくっつけたやつだ。
 刃をかませると、切り落とした部分が袋の中に入る仕組みになっている。
これでお茶の木をザクザク切っていくと、お茶摘みが非常に楽になるというアイテムである。
幼い頃は家の手伝いでお茶摘みをしていたのだが、ちまちまとした手作業が面倒で、このお茶摘み器には非常にお世話になったものである。
 ところが。
このお茶摘み器、困った難点がある。
 さすがに袋に貯めすぎたため、収集場所で袋をひっくり返す…と。
時々、お茶の葉にまざって出てくるのだ、血が。ヘビの頭が。
 お茶畑は山中にあるから、当然、蛇だって出る。
お茶の木に潜んでいたヘビが頭を出した瞬間に、お茶の葉と一緒にざっくりやっちゃったわけですよー。
 新緑に輝くお茶の葉に、ぐねりと禍つヘビの赤。
子どもにはけっこうなトラウマになりました。

 そんな幼少期のことを思い出したのです、この本を読んで。
ユメに出てくるような、後味の悪さ。
なのにどうしてか目を逸らせなくて、吸い寄せられて。
自らの欲のために、他者を虐げるを良しとする人達。彼らが繰り出す行為の数々。
 その本の舞台は、地のニオイでむせ返りそう。
 その本の中では、恨みの深さで沈められてしまいそう。
 人の体なんて、所詮、血袋肉塊だと。告げられる。
 痛みが。ひたひたと、私をワルツに誘う。
 固執していた100円玉で殴り殺される人も。
自らアキレス腱を切る人も。
汚泥の闇に堕ち死する人も。

 それらに、触れる。
彼らの痛みと悼みに触れる。
 痛苦を奏でる文章は、問いかけてくるのだ 私に。
生きているとは何ぞや…と。
 それはかつて、死したヘビの頭が私に向けた双眸の色と同じ問い。
命の果てを、そのきわを。
つま先立ちで、測る行為。

最前線で『iKILL』を読む

2012.06.08

のぞみ
えぇ~!! お茶畑ってへびがでるんですの~!! 知らなかったですわ~!
さやわか
姫……レビューの感想、それだけですか……。たしかに、お茶畑に蛇というイメージは鮮烈で、心を掴む話になっていると思います。それが後半の『iKILL』という作品への感想に重ねられるのもなかなかうまい。意図してやっているかはわかりませんが、幼少期のエピソードを極めて具体的に描きながら、作品の感想は幻視的かつ後ろ暗さを感じる記述になっているのも、こういう文章の書き方としてはいいと思います。しかし、うーん! 「鉄」にします! というのも、この文章は面白いのですが、何かに対する熱意、愛情を読者に伝えようという書き方はされていない。ショッキングでダークなイメージを並べて書くことが目的になっているように感じられるのです。それはレビュアー騎士団が定義している「レビュー」とは、少し遠いかなと思いました。おわかりいただけますでしょうか。

本文はここまでです。