望みを待つもの掴むもの(『幸福論 西川聖蘭第一作品集』)
もう答えてくれることのない
レビュアー:またれよ
雨の日に出会った人殺しの少女は、傘に入れてくれた男を刺して言う。
「自分のためじゃない殺しが存在すると思っているの?」
そして少女は自殺する。命を取りとめた男はそれから雨の日には決まっていつもある場所に行くようになる。その姿は死んでしまった少女を待っているようである。
この物語は何が起こるというわけでもない。
雨の日、傘に入れてあげた少女に刺される。
ただそれだけの話だ。
静かな、動かない物語。それだけに少女の残した言葉が鮮やかに記憶に刻まれる。殺し、とは?
自分のために自分を殺した少女。
殺されることのなかった男。
望みを待つもの掴むもの。
タイトルは最後の項に書かれる。まるでここから物語が始まるかのような。けれどこの先には白紙しかない。
この最終項では男が雨の中、傘をさして佇んでいる。男の中ではまた一項目から物語が繰り返されているのかもしれない。男は少女に再び会い、傘に入れ、刺され、言葉を残され、命を取りとめ、そしてまた雨の中、傘をさしているのか。少女の残した言葉に、問いに、永遠に答えの出ぬまま物語を繰り返していくかのようだ。
なぜ殺すのか。なぜ殺したのか。なぜ死んだのか。答えは出ない。しかしこれは決してその答えを見つけるための物語ではない。生きること死ぬこと、それをただ目の前につきつける物語だ。答えてくれないからこそ、自らに問い続けざるをえないのだ。
「自分のためじゃない殺しが存在すると思っているの?」
そして少女は自殺する。命を取りとめた男はそれから雨の日には決まっていつもある場所に行くようになる。その姿は死んでしまった少女を待っているようである。
この物語は何が起こるというわけでもない。
雨の日、傘に入れてあげた少女に刺される。
ただそれだけの話だ。
静かな、動かない物語。それだけに少女の残した言葉が鮮やかに記憶に刻まれる。殺し、とは?
自分のために自分を殺した少女。
殺されることのなかった男。
望みを待つもの掴むもの。
タイトルは最後の項に書かれる。まるでここから物語が始まるかのような。けれどこの先には白紙しかない。
この最終項では男が雨の中、傘をさして佇んでいる。男の中ではまた一項目から物語が繰り返されているのかもしれない。男は少女に再び会い、傘に入れ、刺され、言葉を残され、命を取りとめ、そしてまた雨の中、傘をさしているのか。少女の残した言葉に、問いに、永遠に答えの出ぬまま物語を繰り返していくかのようだ。
なぜ殺すのか。なぜ殺したのか。なぜ死んだのか。答えは出ない。しかしこれは決してその答えを見つけるための物語ではない。生きること死ぬこと、それをただ目の前につきつける物語だ。答えてくれないからこそ、自らに問い続けざるをえないのだ。