ここから本文です。

読者レビュー

銅

虚淵玄『白貌の伝道師』

「真・悪・美」の少女の挿絵

レビュアー:USB農民 Adept

 何一つ報われずに、無惨に殺されたエルフの少女の姿が、あんなに美しいものだとは、本書を読むまでは思いもしなかった。
「真・善・美」なんて言葉もあるが、「真・悪・美」という言葉こそが、この物語にはふさわしい。

 この物語を支配するのは、純真無垢な悪の化身であるダークエルフが作り上げた、阿鼻叫喚の地獄の美だ。
 騙り、殺し、奪い、滅ぼす。
 非道の限り。惨劇の極み。
 当然のように救いはない。
 そして、地獄の果てに少女は現れる。
 少女は悪によって、命も想いもすべてを奪われた。
 人としての大切なつながりを失い、徐々に人ではなくなっていく彼女の裸体は、エルフの森を焼き尽くす業火に赤々と照らされ艶めかしく映えている。
 少女のか細い体のライン。その矮躯と不釣り合いに巨大な鉈。それらを闇の中に浮かび上がらせる真っ赤な炎。この場面のカラー挿絵は、その美しい情景を見事に描き出している。

 同じ作者の『Fate/Zero』にも、人の内蔵を美しいと形容する殺人鬼が登場するが、そのような読者に嫌悪ばかりを抱かせる独善的な美とは違い、この作品に現出する悪の美は、色鮮やかな挿絵によって、読者を納得させるだけのリアリティを備えている。

 純真な悪の信仰が創出した少女を描いた挿絵は、読了後に改めて見ても美しい。
 やはり、この作品には「真・悪・美」という言葉こそがふさわしい。

2012.04.23

のぞみ
挿絵の効果は大きいと思いますけど、本当に人の心を打つ挿絵は少ないのではないかと思いますわ!
さやわか
『白貌の伝道師』の挿絵は、USB農民さんの心を打ったというわけですな。実際、そのカラー挿絵を描写した箇所は迫力があって、絵の魅力が伝わるものになっています。小説であっても絵によって悪に対して肯定的になれてしまうというのはなかなか本質的な指摘ですね。ちょっとだけ気になるのは、『Fate/Zero』をわりと単純に下げてしまっていることですね。ある作品を褒めるために別の作品を引き合いに出して差を語るのはやりやすいのですが、比較対象を出すとレビューの読者にとっても「どっちが上か」みたいな単純な議論に目がいきやすいので注意が必要だと思います。ここでは「銅」にしてみました!

本文はここまでです。