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読者レビュー

銅

奈須きのこ『空の境界 未来福音』

孤独の意味を変える出会いの物語

レビュアー:USB農民 Adept

 この小説には未来視の力をもった人物が三人登場する。
 一人は、自分の視た未来のために機械的に現在を生きる男。
 一人は、未来視の力を持て余し、自分の人生との折り合いに悩む少女。
 一人は、人のために力を使うことを生業としてきた女性。
 彼と彼女たちにはそれぞれ出会いがあり、その出会いが少しだけ、あるいは大きく、人生の意味を変えていく。
 作品内で、未来視という異能を持つ人物には、深い孤独がつきまとうことが示唆されている。未来の視えない人間にその辛さは推し量ることはできないが、そんな能力はなくとも、人は孤独を感じて生きざるをえないことを思えば、この物語はそう特別な話ではないことにも気づける。
『未来福音』は、未来視の力をもつ三人の人物の孤独を描いているが、あくまでそれは、普遍的な孤独についての話の一例なのであり、読者一人一人の孤独とも決して無関係ではない。
 そして、物語の結末はポジティブで明るい。
 孤独に苛まれ続ける人生も、出会いによってその意味は変わるのだと、『未来福音』は静かに語っている。

2012.04.02

のぞみ
ちょっと哲学的でカッコいいレビューだと思いましたわ。
さやわか
短く書いたレビューとしてはいいものだと思います。未来視という設定に興味を持たない読者にも、作品の持つ普遍性を訴えることができている。しかしラストの2行についてはちょっとだけ引っかかりました。「そして、物語の結末はポジティブで明るい」という文章を除けば、この文章は一貫して最後の一文で言っている「孤独に苛まれ続ける人生も、出会いによってその意味は変わる」ということについて書かれている。つまり、「そして、物語の結末はポジティブで明るい」だけが論理の流れからするとちょっと浮いていて、だからそこが引っかかるポイントになっている。ちょっとレビューとして前向きに終わるために用意された部分に見えそうに思います。そうであってもかまわないのですが、ここはうまくまとめてあげるべきでしょうな。例としては「孤独に苛まれ続ける人生も、出会いによってその意味は変わる。この上なくポジティブで明るい結末を迎える者もいる。そのことを『未来福音』は静かに語ってくれる」みたいな感じでどうでしょうか。とりあえず今回は「銅」ということにさせてください!

本文はここまでです。