芝村裕吏『マージナル・オペレーション』
判断力
レビュアー:USB農民
あらゆる仕事で求められる基礎的かつ重要性の高い能力の一つに、「判断力」がある。
私事だが、二月は仕事がとても忙しかった。作業工程を記した一ヶ月分のスケジュール表は、明らかな無茶振りだった。初日のミーティングでプロジェクトリーダーは「今日からフルスロットルでお願いします」などと言い放ち、俗に言うデスマーチが始まった。初日は当然のように長い残業が発生した……。
(この文章の趣旨とはあまり関係がないので、その仕事の結果をここで端的に記しておく。結論から言って、まあ、なんとか納期に間に合った。いつも思うのだが、どうして仕事って、どんな無茶なスケジュールでも最後にはなんとかなるのだろうか……不思議でならない)
作業内容は主にプログラムのバグを発見するための資料の作成で、大量のソースコードの一つ一つについて、虱潰しに読んでいき、チェック項目を確認していく。単純だが、情報量が異様に多いのが難点だった。
この作業のコツは、資料の作成に取りかかる前に、作業の進め方の方針を決めることだ。考えながら資料を作る時間的余裕はない。最初に明確な方針を決めておけば、作業上の問題が起きた時でも素早く対処できる。
方針がなければ、問題に対処するのが遅れてしまう。問題に対処している間、当然だが本来の作業の手は止まってしまう。つまり、残業が確定する。そして翌日にその疲れが持ち越される。さらに疲労がたまる。以下、負のスパイラルが続く……。
重要なのは「判断力」だ。
問題が起きたときはもちろんのこと、大事なのは仕事を始める前の判断だ。何が重要で、何が重要でないのかを事前に把握しておくことがポイントだ。その情報を元に、作業の方針を決める。
とまあ、口では簡単に言えるものの、これを上手くこなすことはなかなか難しい。
正直なところ、私の「判断力」はまだまだ不足しているなあと感じることが度々であり、「判断力」を鍛えることは私の悩ましい課題となっている。
そんなことを考えている時期に、通勤電車に揺られながら『マージナル・オペレーション』を読んだので、主人公であるアラタの才能に、私は舌を巻きつつ、尊敬の念すら覚えた。
アラタの才能は、人並み外れた「判断力」だ。
戦場の兵士たちに対して戦術指揮をとるアラタは、他の同僚に比べて圧倒的に判断が早い。不測の事態に対しても、数秒で戦術の方針を決めている。その類稀なる能力は、周囲の同僚たちからも感嘆の声を集めている。
戦場と言う特殊な職場においても、やはり「判断力」は重要なのだ。いや、戦場だからこそ、その重要性は殊更高いとも言える。いざ実戦が始まった時、「さて、これからどう戦うか」などと暢気なことを考えている余裕はないはずだ。
戦場における重要要素の把握は、戦闘開始前に当然すませておかなくてはいけない。アラタは、「青いボタンのゲーム=戦術指揮のシミュレーション」でそのパターンを身につけた。そしてそれを活用できるだけの能力を、アラタは持っている。
上司から割り振られた難題も、アラタは何でもないことのようにこなしてしまう。私はその能力の高さに、彼の周囲の人物たちと同じように驚嘆してばかりだ。その判断力の高さを羨ましいとすら思う。
「決断を早くする秘訣はとりあえず案を一個作って、それを暫定チャンピオンにすることだね。これが一番だと。後はそれ以外の案と一つずつ比較して、チャンピオンに勝てなければ廃案。勝てるならそれを新しいチャンピオンにする。それを繰り返せばいい」
「迷ったときは?」
「暫定チャンピオンの勝ちでいいじゃないか」
「メリットやデメリットはどう評価、判断するの?」
「考えない。勘で行う」
この考え方は、明日からの仕事で使えるくらい実践的な手法だ。「有り難い、有り難い」と思いつつ、私はこのアラタ式の決断術を今後使っていこうと思う。
最前線で『マージナル・オペレーション』を読む
私事だが、二月は仕事がとても忙しかった。作業工程を記した一ヶ月分のスケジュール表は、明らかな無茶振りだった。初日のミーティングでプロジェクトリーダーは「今日からフルスロットルでお願いします」などと言い放ち、俗に言うデスマーチが始まった。初日は当然のように長い残業が発生した……。
(この文章の趣旨とはあまり関係がないので、その仕事の結果をここで端的に記しておく。結論から言って、まあ、なんとか納期に間に合った。いつも思うのだが、どうして仕事って、どんな無茶なスケジュールでも最後にはなんとかなるのだろうか……不思議でならない)
作業内容は主にプログラムのバグを発見するための資料の作成で、大量のソースコードの一つ一つについて、虱潰しに読んでいき、チェック項目を確認していく。単純だが、情報量が異様に多いのが難点だった。
この作業のコツは、資料の作成に取りかかる前に、作業の進め方の方針を決めることだ。考えながら資料を作る時間的余裕はない。最初に明確な方針を決めておけば、作業上の問題が起きた時でも素早く対処できる。
方針がなければ、問題に対処するのが遅れてしまう。問題に対処している間、当然だが本来の作業の手は止まってしまう。つまり、残業が確定する。そして翌日にその疲れが持ち越される。さらに疲労がたまる。以下、負のスパイラルが続く……。
重要なのは「判断力」だ。
問題が起きたときはもちろんのこと、大事なのは仕事を始める前の判断だ。何が重要で、何が重要でないのかを事前に把握しておくことがポイントだ。その情報を元に、作業の方針を決める。
とまあ、口では簡単に言えるものの、これを上手くこなすことはなかなか難しい。
正直なところ、私の「判断力」はまだまだ不足しているなあと感じることが度々であり、「判断力」を鍛えることは私の悩ましい課題となっている。
そんなことを考えている時期に、通勤電車に揺られながら『マージナル・オペレーション』を読んだので、主人公であるアラタの才能に、私は舌を巻きつつ、尊敬の念すら覚えた。
アラタの才能は、人並み外れた「判断力」だ。
戦場の兵士たちに対して戦術指揮をとるアラタは、他の同僚に比べて圧倒的に判断が早い。不測の事態に対しても、数秒で戦術の方針を決めている。その類稀なる能力は、周囲の同僚たちからも感嘆の声を集めている。
戦場と言う特殊な職場においても、やはり「判断力」は重要なのだ。いや、戦場だからこそ、その重要性は殊更高いとも言える。いざ実戦が始まった時、「さて、これからどう戦うか」などと暢気なことを考えている余裕はないはずだ。
戦場における重要要素の把握は、戦闘開始前に当然すませておかなくてはいけない。アラタは、「青いボタンのゲーム=戦術指揮のシミュレーション」でそのパターンを身につけた。そしてそれを活用できるだけの能力を、アラタは持っている。
上司から割り振られた難題も、アラタは何でもないことのようにこなしてしまう。私はその能力の高さに、彼の周囲の人物たちと同じように驚嘆してばかりだ。その判断力の高さを羨ましいとすら思う。
「決断を早くする秘訣はとりあえず案を一個作って、それを暫定チャンピオンにすることだね。これが一番だと。後はそれ以外の案と一つずつ比較して、チャンピオンに勝てなければ廃案。勝てるならそれを新しいチャンピオンにする。それを繰り返せばいい」
「迷ったときは?」
「暫定チャンピオンの勝ちでいいじゃないか」
「メリットやデメリットはどう評価、判断するの?」
「考えない。勘で行う」
この考え方は、明日からの仕事で使えるくらい実践的な手法だ。「有り難い、有り難い」と思いつつ、私はこのアラタ式の決断術を今後使っていこうと思う。
最前線で『マージナル・オペレーション』を読む