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読者レビュー

銅

唐辺葉介『死体泥棒』

冷たな世界で彼女は如何な顔をしてるのか

レビュアー:ユキムラ Adept

 青が好きだ。
 色の話である。
原色ならば、断然 青が。
 ゆえに、『死体泥棒』の表紙は嫌いじゃない。むしろ好感を持っている。

 冷たい静謐を思わせる、背景の小物もいい。
だがやはり、表紙で一番目を引くのは中央の女性だろう。
 タイトルの『死体泥棒』の中央部分にあるため、これは死体なのかな~とか考える。
 妙齢の女性のイラストなのだし、読者マナーとしておりあえず胸元を凝視。
わずかに確認できる線引きに谷間を妄想して、少し幸せな気分にひたって。


 表紙の観賞と鑑賞を経て、中へと進む。
幸せな気分を引きずって。
 されど、内容は打って変わって...


 ある描写で手が止まった。【移植】。
生きてても他人の幸せの為に働き続け、死してなお 見も知らぬ誰かの幸せのために体を部品としてむしり取られた彼女…
語り部である「僕」に同化して、私は引きずられるように悲嘆にくれた。
 挟まれるのは、生前の会話エピソード。
そのとき言葉を交わした彼女はもう死んでいて、死体として「僕」と私の眼前にある。
ざっくり残された胸元の縫い跡は、ほほえましかったはずの話題を、反転、残酷なる伏線へと還元させる。

 ふたたび、表紙を。

 女性の胸元には、やはり、ひとすじの線が。
読み始める前、私が谷間だと盲信した そのひとすじ。

 それは、
もしかして、
ひょっとすると、、、



 やがて半泣きになって読み終え、本を閉じる。
みたび表紙を見て――
 そのとき初めて、私は女性の顔を見た。

 涙が邪魔で、彼女が浮かべている表情を、私は読み解くことができない。
自分以外の誰かが生き続けるための糧となれたことに、満足している?
若いうちに死んでしまったことを、嘆いている?
「僕」を残し、そして「僕」に罪を遺してしまったことを、憂いている?
それとも。
私と同じように、この「僕」の今後を祈っている?


 どうか。
どうかせめて。
 涙のフィルターをつけていない誰かに。彼女のココロを、受け止めてほしい。

2012.04.02

のぞみ
とても詩的で感動しました。
さやわか
たしかに詩的というか叙情的なのですが、書き手の読書体験に沿わせて感情の流れを書いているのがいいと思います。それによって格段に読みやすさが増している。
のぞみ
表紙を見たら、なんだか私まで涙が出そうですわ。ユキムラさんの優しさが伝わってきます。
さやわか
ユキムラさんと同じ過程を踏んで作品を読んでみたくなりますな。それもやはり読書体験に沿った流れの文章を書いているからでしょう。感情に訴えるために含みを持たせた書き方をしているところがいくつかあり、それゆえに論理的にはぼかした内容にならざるをえないのですが、それはさておいていい内容だったと思います。文句なしに「銅」ということになるでしょう!

本文はここまでです。