エレGY 泉和良
馬鹿がつくほどはしゃいだあとに
レビュアー:ややせ
ゲームクリエイターとそのファンの女子高生との、ハイテンションで爽快なラブストーリーである。
多少痛々しいのも、二人が純粋に「好き」なだけだというのが伝わってくるから、笑って読むことができた。
彼女が好きなのはクリエイターとしてのジスカルドであって、本当の「僕」では無いと主人公が悩み始めるのも、まあいいだろう。
でも、じゃあ何を知っていれば、どこを好いていれば、「その人自身」を慕っていることになるんだろう?
ふと疑問に思ったときから、これは私にとってとても怖い小説となり、適当に頁をめくっていたのが急に読むのをやめられなくなった。
ジスカルドというキャラクター、つまり幻想の自分を想っているに過ぎないとする「僕」の方こそが、実はエレGYのことについて何も知らない。本名も趣味も、どういう心理でリストカットをしてしまうのかも、知らない。
パンツ画像で好きになったんでしょ!と言われても否定できないレベルである。
それに比べると、エレGYはジスカルドの好みを、思考を、想像力で補っているとはいえ知っている。
一方は何も情報が無い状態からの好意、一方は偽物かもしれない情報からの好意。
そして「僕」の友人・小山田とその恋人の関係は、とてもシビアな未来の不安を「僕」に見せつける。
個性があるから主張していかなければならないのか、主張しなければならないから個性を作らなければならないのか。
文章や絵、音楽だけでなく、ファッション、趣味、道楽、あらゆる「好きなもの」を持ち、なおかつそれを説明したり表現したりするのは、オンライン上では必要なことだ。(そうでなければ、その存在の点滅など誰にも知られないのだから)
それをこの二組のカップルのように現実の関係に持ってこようとするとき、引き継ぐことが出来るものは何なのか、変質してしまうものは何なのか。
オンラインから先に出会うということは、ジスカルドのようなファンを持つ立場でなくても、この幻想に悩まされるということではないだろうか。
一目惚れ、という言葉がある。
また、恋とは思い込みから始まる、とも言う。
絶えず相手のことを知り続け、誤解を訂正し続けなければならない永久の戦いのような恋。人間関係。
人の距離は近くなったようで、出会いの組み合わせは無限になったようで……一対一になろうとすると途端に分からなくなる。
「聞けよ、馬鹿!! ジスカルドも泉和良も、両方併せておまえだろ!!」
エレGYは叫ぶ。
そう、どの「私」も「私」であることに疑いはない。
ただそれを見せるのが、怖い。
最前線で『エレGY』を読む
多少痛々しいのも、二人が純粋に「好き」なだけだというのが伝わってくるから、笑って読むことができた。
彼女が好きなのはクリエイターとしてのジスカルドであって、本当の「僕」では無いと主人公が悩み始めるのも、まあいいだろう。
でも、じゃあ何を知っていれば、どこを好いていれば、「その人自身」を慕っていることになるんだろう?
ふと疑問に思ったときから、これは私にとってとても怖い小説となり、適当に頁をめくっていたのが急に読むのをやめられなくなった。
ジスカルドというキャラクター、つまり幻想の自分を想っているに過ぎないとする「僕」の方こそが、実はエレGYのことについて何も知らない。本名も趣味も、どういう心理でリストカットをしてしまうのかも、知らない。
パンツ画像で好きになったんでしょ!と言われても否定できないレベルである。
それに比べると、エレGYはジスカルドの好みを、思考を、想像力で補っているとはいえ知っている。
一方は何も情報が無い状態からの好意、一方は偽物かもしれない情報からの好意。
そして「僕」の友人・小山田とその恋人の関係は、とてもシビアな未来の不安を「僕」に見せつける。
個性があるから主張していかなければならないのか、主張しなければならないから個性を作らなければならないのか。
文章や絵、音楽だけでなく、ファッション、趣味、道楽、あらゆる「好きなもの」を持ち、なおかつそれを説明したり表現したりするのは、オンライン上では必要なことだ。(そうでなければ、その存在の点滅など誰にも知られないのだから)
それをこの二組のカップルのように現実の関係に持ってこようとするとき、引き継ぐことが出来るものは何なのか、変質してしまうものは何なのか。
オンラインから先に出会うということは、ジスカルドのようなファンを持つ立場でなくても、この幻想に悩まされるということではないだろうか。
一目惚れ、という言葉がある。
また、恋とは思い込みから始まる、とも言う。
絶えず相手のことを知り続け、誤解を訂正し続けなければならない永久の戦いのような恋。人間関係。
人の距離は近くなったようで、出会いの組み合わせは無限になったようで……一対一になろうとすると途端に分からなくなる。
「聞けよ、馬鹿!! ジスカルドも泉和良も、両方併せておまえだろ!!」
エレGYは叫ぶ。
そう、どの「私」も「私」であることに疑いはない。
ただそれを見せるのが、怖い。
最前線で『エレGY』を読む