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読者レビュー

銅

「青春離婚」

ヒロインの心と、一文字の雨音

レビュアー:USB農民 Adept

 漫画「青春離婚」は、不慣れな恋愛に戸惑いや喜びを覚える、ヒロインの心の揺れや機微を上手く映し出すことに成功している。だから面白い。そして、その面白さを作り出すための工夫もまた、一つ一つが面白い。

「青春離婚」はカラー漫画だが、画面の半分ほどはモノクロ調だ。敢えて色を抑制する理由は、読者の関心をヒロインの感情の動きへ導くためだ。
 例えば、主要人物以外のキャラクターには色がない。グレーの影がかかっているのみだ。あるいは傘にも色がない。これらの要素は、ヒロインの感情表現との関わりが薄いからだ。
 逆に画面の背景色の色遣いなどはとても細かい。第一回の後半に、何度か使われている黄色系の背景色は、そのどれも同じ色ではない。(気持ちが大きく、意志が強いほど濃い黄色に変化している)
 色の有無と、その濃淡などを効果的に使うことで、ヒロインの微妙な心の動きが描き出されている。

 もう一つ、音について見ても面白い。
 第二回の雨が降っている場面で、雨音は最初「ザアアア」と表現されているが、ヒロインがスマートフォンの説明についていけず、困惑した表情を浮かべているコマでは「どざーーーー」という重たく間の抜けた感じのする表現に変わっている。そして「お願いします。夫婦のよしみで」と言われたヒロインが言葉に詰まるコマでは、雨音は「ザ」と一文字で描かれている。ヒロインの意識が、投げかられた言葉に集中し、周りの雨音が気にならなくなったことを、たった一文字で説明している。

「青春離婚」はヒロインの多彩な表情の変化を眺めるだけでも楽しい漫画だが、こうした細かい表現に着目してみるのも面白い。

2012.02.18

のぞみ
雨の音、背景の色から心情を読み解くというのは新しいですわ!
さやわか
「色を抑制する理由は、読者の関心をヒロインの感情の動きへ導くためだ」と断言する書き方は好ましいです。こういう書き方はよく「作者が本当にそう意図したかどうか」という問われ方をするのですが、そんなことは関係ないのです。作者に対してすら、自分の作品が何を行っているのか示すべきなのです。だから、ここは言い切るのが正しいですな。
のぞみ
私だったら、雨の音が「ザ」だけで書かれていたら、ザってなんだろ…とか思ってしまいますわ(´ω`*) 雨の音の表現で、心情の関わりも見えるって素敵ですわね!
さやわか
うむ。漫画の描き文字から心情を読み取るというのは、意外と見たことのないタイプの指摘です。これも面白い。文章的にはわりと各段落の接続がしっかりしていなくて残念なのですが、発想はよかったと思います。「銅」ということにいたしましょう!

本文はここまでです。