渡辺浩弐『iKILL2.0』
復讐では返り血が復讐者を犯罪者へと祀り上げる。
レビュアー:ユキムラ
『サザエさん』に出てくるイクラちゃんは、初期設定では女の子だったという説があるらしい。
もしそれが本当だったら、タラちゃんをめぐってリカちゃんと恋の鞘当てをしていたかもしれない。
そーんな一人娘がいる波野一家をイメージしていただきたい。
頑張ってお仕事をするパパのノリスケさん。
主婦のタイ子さん。
そして一人娘の彼女。
残念なことに、タイ子さんは病気で他界してしまう。
それでも健気に二人で生きてゆく父娘。
「お母さんが天国から見守ってくれてるよ」って、支え合って肩寄せ合って、生きてゆく。
社会に蔓延する不条理は、なんの罪も無いこの二人を呑み込んでしまうのだ。
妻の忘れ形見の一人娘が、ある日 金目当てで誘拐される。
携帯電話のTV電話機能ごしに見せられる悲惨な現状から娘を救い出すため、ノリスケさんは懸命に犯人の要求に従い続ける。
「アキレス腱を切れ」
そんな怖気立つような命令も、娘の為とて黙々と従うのだ。
自分の、両足の、アキレス腱を、ざっくりと。
自分の痛みを度外視してまで呑んだ要求の果てに、けれど、ノリスケさんは絶望だけを得る。
見せしめの為にスタンガンで嬲られ続けた一人娘は、至極あっけなく死んでしまったのだ。
嗚呼 人の命の儚いものよ…と、思わず目を背けたくなるような結末。
そう、一見するとそれが終末。それこそが終結。
犯人が逮捕され、事件はこれにて一件落着だ。
だが、ノリスケさんの人生はここでは終わらない。
むしろ、ノリスケさんの絶望は此処から始まるのだ。
未成年。
ただそれだけの事実を盾に、下手人は罪を償うことすらしない。
悪びれることもなく――ノリスケさんが自分を恨んでいるとさえ想像せずに、下手人はノリスケさんに取引をもちかけてくる。
そしてノリスケさんは、この下手人殺害の決意を固めてゆくのだ。
やがて「i-KILLネット」管理人のオタキリの助力を得て、ノリスケさんは復讐を果たす。
その復讐の過程を、胸がすくように見守るのも、眉をひそめて流し読むも、読む人次第。
ノリスケさんから届く実況メールを最後まで読んだ先、そこで蠢いている魂は、一人娘を殺されて絶望に染まっている。
其の魂は告げる。
――今の私の心は,とても澄み切っています。
一人娘を奪われて絶望に苦しんでいたノリスケさんは、自らの裡に救いを見出した。
そう、彼にとって、下手人の殺害は自分に対しての救いだ。
その救いは世間一般の倫理からしてみれば、偽りの救いなのだろう。
そもそも、人を殺して得られる心の平安なんてあるはずが無い。
それでも彼は、その偽りの救いを掲げて生きてゆくのだ。
偽りの救いは、彼にとっては限りなく本物の救いだろうから。
芳賀敬太氏はタイナカサチ(現・タイナカ彩智)をして、『imitation』という曲でこう歌わせている。
【きっと 偽物は本物に変わるだろう】
もしかしたら、ノリスケさんの中では、すでに偽物は本物とすりかわっているのかもしれない。
偽者の救いを本物のそれと信じて生きてゆくことこそが、彼にとっての救いなのかもしれない。
それはノリスケさんにとっての幸福にあたるのだろうか?
問えども応えはなく、答えもまた無い。
されど私は其の答えを知っているような気がする。
彼もまた、深淵を覗き込み過ぎてしまった者なれば。
もしそれが本当だったら、タラちゃんをめぐってリカちゃんと恋の鞘当てをしていたかもしれない。
そーんな一人娘がいる波野一家をイメージしていただきたい。
頑張ってお仕事をするパパのノリスケさん。
主婦のタイ子さん。
そして一人娘の彼女。
残念なことに、タイ子さんは病気で他界してしまう。
それでも健気に二人で生きてゆく父娘。
「お母さんが天国から見守ってくれてるよ」って、支え合って肩寄せ合って、生きてゆく。
社会に蔓延する不条理は、なんの罪も無いこの二人を呑み込んでしまうのだ。
妻の忘れ形見の一人娘が、ある日 金目当てで誘拐される。
携帯電話のTV電話機能ごしに見せられる悲惨な現状から娘を救い出すため、ノリスケさんは懸命に犯人の要求に従い続ける。
「アキレス腱を切れ」
そんな怖気立つような命令も、娘の為とて黙々と従うのだ。
自分の、両足の、アキレス腱を、ざっくりと。
自分の痛みを度外視してまで呑んだ要求の果てに、けれど、ノリスケさんは絶望だけを得る。
見せしめの為にスタンガンで嬲られ続けた一人娘は、至極あっけなく死んでしまったのだ。
嗚呼 人の命の儚いものよ…と、思わず目を背けたくなるような結末。
そう、一見するとそれが終末。それこそが終結。
犯人が逮捕され、事件はこれにて一件落着だ。
だが、ノリスケさんの人生はここでは終わらない。
むしろ、ノリスケさんの絶望は此処から始まるのだ。
未成年。
ただそれだけの事実を盾に、下手人は罪を償うことすらしない。
悪びれることもなく――ノリスケさんが自分を恨んでいるとさえ想像せずに、下手人はノリスケさんに取引をもちかけてくる。
そしてノリスケさんは、この下手人殺害の決意を固めてゆくのだ。
やがて「i-KILLネット」管理人のオタキリの助力を得て、ノリスケさんは復讐を果たす。
その復讐の過程を、胸がすくように見守るのも、眉をひそめて流し読むも、読む人次第。
ノリスケさんから届く実況メールを最後まで読んだ先、そこで蠢いている魂は、一人娘を殺されて絶望に染まっている。
其の魂は告げる。
――今の私の心は,とても澄み切っています。
一人娘を奪われて絶望に苦しんでいたノリスケさんは、自らの裡に救いを見出した。
そう、彼にとって、下手人の殺害は自分に対しての救いだ。
その救いは世間一般の倫理からしてみれば、偽りの救いなのだろう。
そもそも、人を殺して得られる心の平安なんてあるはずが無い。
それでも彼は、その偽りの救いを掲げて生きてゆくのだ。
偽りの救いは、彼にとっては限りなく本物の救いだろうから。
芳賀敬太氏はタイナカサチ(現・タイナカ彩智)をして、『imitation』という曲でこう歌わせている。
【きっと 偽物は本物に変わるだろう】
もしかしたら、ノリスケさんの中では、すでに偽物は本物とすりかわっているのかもしれない。
偽者の救いを本物のそれと信じて生きてゆくことこそが、彼にとっての救いなのかもしれない。
それはノリスケさんにとっての幸福にあたるのだろうか?
問えども応えはなく、答えもまた無い。
されど私は其の答えを知っているような気がする。
彼もまた、深淵を覗き込み過ぎてしまった者なれば。