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読者レビュー

銅

Fate/Zero

走狗が黒幕に至る物語

レビュアー:ユキムラ Adept

『Fate/Zero』は、『Fate/stay night』の10年前の物語。
『Fate/stay night』というゲームの舞台が整うまでの前日譚である。


 さて――
それでは、『Fate/Zero』の話をしよう。というか、言峰綺礼の。


 10年後の『Fate/stay night』では二人のサーヴァントを使役して暗躍する外道神父・言峰綺礼。
ところが、『Fate/Zero』では彼は黒幕ではない。
暗躍は多少なりともしているが、せいぜいが遠坂時臣の走狗+αといったところ。
自分の真実求めているものが一体なんなのかさえ、よくわかっていない未熟者。
ギルガメッシュとの問答では、悦は罪だ!なんて口走っちゃったりして。
自分の中にある答えに気づかずに、衛宮切嗣にこそ答えがあると盲信して固執して。


 正直、そんな言峰綺礼のことを私はあんまり好きじゃない。
私が好きなのは、『Fate/stay night』の綺礼さんだから。
自分を愉しませてくれる事象をちゃんと理解していて、他人の心を切開してキャッキャウフフする外道っぷりが好きなのー。

 だから、10年前の言峰綺礼は見ていて歯がゆい。
嫌いってワケじゃないけど、好きでもない。あんまり。
 そりゃね、中の人は好きだよ?
でも。『Fate/Zero』の言峰綺礼は『Fate/stay night』の綺礼さんじゃない。
現在進行形でソッチ方面に成長しかかっている、いわば『ピュア(?)綺礼』だ。


 そんな言峰綺礼が、少しずつ、私の好きな綺礼さんへと堕ちてくる。
正直、ちょーゾクゾクする。

 英雄王に道を示されて、
  間桐蔵硯にちょっかいを出されて、
   ときどき死別した奥さんを思い出して、
    衛宮切嗣に思いを馳せる日々を送って、

 こごえた冬木の空の下、言峰綺礼は確実に道を踏み外してゆく。


 その背を、私は見守るのだ。
そっと手を伸ばして、その背を思いきり押してやりたい。そんな衝動を殺す。


   ただ見守るだけの幸福


 早く私の知っている綺礼さんになってほしいと願う、お茶目な嗜虐心。
 綺礼さんへと堕ちてゆく軌跡をもう少し堪能していたいと魔が差す、ささやかな好奇心。

 このふたつがぶつかって私をたぎらせる。
言峰綺礼と衛宮切嗣の最終戦のような、真正面からのぶつかり合い。


 それは、まるで、聖杯戦争のような――戯曲のかたち。

2012.01.17

さやわか
「ちょーゾクゾクする」みたいなライトさもありつつ、改行や空白を使ってレイアウト的に凝ろうとしていて、なかなか面白く読めます。文章のスタイルとしては整っている。しかしもうちょっと具体的に小説の中身に言及されていたらよかったかなという気もします。もう、このスタイルでやるならピンポイントでいいんです。ピンポイントで「ここ!」という箇所を指摘しながら語っていたら、レビューとしての読み応えが出て、さらに読者の作品への興味を惹くことができるんじゃないかなと思いました。今回は「銅」とします!

本文はここまでです。